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街から遠く離れている。わざわざバスを乗り継いでやって来るような場所じゃない。
蛇は「ぐふふ」と笑った。この男は言葉も行動も、いま浮かべている笑顔ですら、なにひとつ信用できないタイプの人間だ。掴みどころがなく、その人となりを理解するのは難しい。
敵側の可能性もある。警戒心を高める。肌がピリつく。
しかし当の蛇は愛用のナイフを取り出すふうでもなく、俺たちが何の話をしていたかを明石から聞いている。うんうんと頷きながら「あーね」と相槌をうっている。うつな。というかくそくだらない話の説明とかするな。俺を挟んで、蛇と明石はなごやかに笑い合っていた。
「なるほど。大声で性癖暴露して敵を威嚇して、その隙に逃げようって作戦の話ね?」
びっくりするほどねじ曲がって伝わっている。
そんな頭の悪い作戦があって堪るか。
「ちな俺さまくんはね、女のヒトがブラウス着てるとき、胸を張ったときとか、背中を丸めたときとかに出来る身体のラインに沿った張りがグッと来る。鬼好き」
「え?」
明石が穏やかな笑顔を浮かべたまま蛇に向かって小首を傾げた。
「は?」
俺はシンプルに聞き返す。
「あ?」
蛇は狂気にも思える無邪気な笑顔をまき散らしている。
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