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標的を捉えようとさまよっていた銃を左手で押さえ、右手で男の肩を力強く掴んだ。抵抗される前に、男の目を至近距離から見つめて強い口調で言った。
「おっぱいがいっぱい、どう思う?」
「ハ?」
時間が止まる。
世界から取り残されたように。
いっそ本気で取り残してくれ。
「っせい!」
走り込んで来た明石の跳び蹴りが男を吹き飛ばした。勢いよく地面を転がって行った身体は木箱とドラム缶の山に突っ込んで、けたたましい音をあげた。
再び、俺たちは走り出す。
包囲網を潜り抜け、破れたフェンスから現場を後にした。波音や船の汽笛は、近くを走る幹線道路の騒音がかき消している。大きな通りに出ればバスに乗って街へ戻れる。広大な空き地のなかを伸びる舗装道路を歩いていく。
足が重い。疲労もあるが、もっと別のものが俺の身体にのしかかっている。
「てゆかすごくない? 相手が聞かないなら、真っ向から聞かせようっていう心意気。突っ込んでいく判断と決断。ヤバいよね、イカレてる」
蛇が明るい声をあげて笑っている。ひとりだけ足取りが軽い。
ぱちぱちと拍手をしてくる。一番イカれてる奴に言われてもまったく嬉しくない。
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