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さらさらとした雨と一緒に桜の花びらが散っていく。
そんな時間はそう長く続かない。僕は傘を閉じて雨と花を浴びながら実咲(みさき)のことを思い返す。
彼女はもうこの世に存在しない。
最期にお礼を言ってくれたけど、僕自身は彼女を大切にできていたという自信は全くなくて、形のはっきりしない後悔があるままだ。棘が残っているせいで春が、最後に実咲と歩いた桜の咲く道が少しばかり嫌いだ。そこに小雨が合わさると尚更。
嫌いならわざわざ来なくても良いのだけど、区切りをつけるために敢えて待ち合わせ場所にここを選んだ。
泣きたいけど泣けないからいつまでもそのまま。どうしようもない自分に疲れたからもう終わりにしたい。きっかけがなければ切り替えられないからいまこうしてここに立っている。
刺さったままの棘を想い続けることを終わりにする。
実咲のことは過去の記憶として心の奥底に置いておき、前に進みたい。
もう少ししたら待ち合わせ相手の遥香(はるか)がここへ来るからその前に傘を開いて上着に着いた雨粒を落とそう。
そろそろかなと思ったところで、「どうしたの?」と声をかけられた。その方向、右隣を見ると遥香がすぐ近くに立っていた。
「傘持ってるのに差してないとか。それにぼんやりしてるし大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと二年前のこと思い出してて……」
僕は距離が近いことに動揺しながら答えた。
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