小雨桜

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 遥香とはバイト先で同じ大学生同士として知り合い、付き合い始めて半年だけど実咲のことについては全く話していない。付き合っているといっても友人の延長のようなものだ。良い意味で気軽なその彼女が遠慮なしに「失恋?」ときいてきた。 「まあそうなるかな」 「それ嫌じゃなかったら詳しく聞かせてよ」  さらりと言う。  遥香は良くも悪くも裏表がない性格をしていて僕はいつも助けられている。そんな相手に隠し事をしても意味がないし、する気もないのでそのまま話を進めた。 「二年前、付き合っていた彼女が死んだんだ。病気で」 「……それ失恋じゃないよ」 「なくしたことには変わりない」僕は桜を見ながら答えた。「そのこと考えるのももう終わりにしようとしてるけど、すぐには終わりそうにないよ」 「そっか」  言って遥香の返答を聞いた後、言わなければ良かったと思った。彼女が気にしていないようでもこれでは甘え過ぎだ。 「ごめん」  反省しながら謝ると遥香は困ったような顔をした。 「謝るのはなしだよ。誰にでも忘れられないことってあるし」 「え?」 「詳しくって言ったけどそれはもういいや。そろそろ傘差したら?」  その通りだった。小雨ではあるけど当たり続ければ冷えて風邪を引いてしまう。僕はコートと髪についた雨水を手で払って傘を開いた。開きながら質問をする。 「忘れられないことって何?」 「色々あるよ。例えば小さいときに大型犬に噛みつかれそうになったとか」  遥香は軽いようで軽くない話を答えとして出してきた。 「実際には噛まれなかった?」 「もちろん。ギリギリのところでだけど」 「なら良かった」 「最初からそう言ってるよ」 僕の言葉に呆れて笑った。けど、「ところでさ」と次の瞬間には話を真面目な方向へ変えてきた。
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