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1 オメガになった日
今日から高校生活が始まる。
ワクワクしながらも不安はある。それはこれから始まるかもしれない発情期や、改めてアルファやオメガという人種の中に入ることだった。
正樹の中学時代は、ベータだけの学校に通っていた。だが高校には、中学の時とは違いベータだけではなくアルファやオメガも存在するらしい。
そこは受験する際に、再度バース検査を受けることが必須だった。突出した能力も無い正樹は十歳のときに受けるバース一斉検査では、もちろんベータと診断されていた。
今さら調べ直すことになんの意味ないのにと思ったが、たまにいきなりアルファになる人種もいるらしい。とにかくそれが高校入試に必須なら仕方ないと思い、検査を受けてきたのが全ての始まりだった。
検査結果は、まさかのオメガだった。
両親はそんなこともあるのかと驚いてはいたが、むしろ母親は喜んでいたように見えた。なぜなら正樹の母親は腐女子という部類らしく、アルファのイケメンを婿に迎えられるチャンスができたと訳のわからないことを言っていたからだった。
それはさておき、多様性の中でも生き抜く力を手に入れろという真山家の方針と、若いうちからできるだけ多くのバースと触れ合わせて偏見の無い人間に育って欲しいという両親の願いがあり、正樹はなんの疑問もなく、その両親が選んできた高校に勧められるまま受験しただけだった。
その時までは何も考えていなかった。たが、今は違う。
――俺、男! オメガとなった以上、そんな学校行くのは嫌だ。自慢じゃないが凡人の中の凡人、それが俺、 真山正樹だ!
今まで性別を疑ったこともなく、もちろん男としてしか生きていない。可愛い女の子で童貞を卒業するのを夢見ている。
それなのに、妊娠できて男はおろかアルファなら女の子にまで掘られる側。そんなの受け入れられるわけがない。そしてそんな恐ろしい人種がいるところになんて行きたくない。正樹は自分がオメガであると知って、初めてそういう世界に違和感を覚えた。
いっそこのままオメガを隠して、またベータしか存在しない学校に通えばいいのではないか? そう思い親に相談するも、もうその高校には事前検診の結果も送っていた。
国の方針でアルファとオメガは自動的に行く学校は決められ、そのひとつがその学校だった。オメガと判明した時点で、たとえベータだけの学校に受かっていたとしても無駄だったのだ。というわけで、正樹がそこに通うのは決定事項になっていた。
ベータだけの幸せな中学時代、高校でもそれを選べば良かった。そしたら再度バース検査なんて受けずに、発情期がくるまでオメガだって知らず生きられたのに……そう悩むものの、全てが遅すぎた。
無駄な努力をしてきたことを、正樹は嘆いていた。
なんの考えもなく親の勧めるままに、正樹の偏差値ではかなり厳しいにもかかわらず、辛い受験勉強を頑張った。
――今となっては悔しいぜっ!
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