桜に似ているその手のひらを

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『ごめん!彼氏が行くなっていうから 女子会行けなくなっちゃってごめんね!』 スマホをぽちぽちと長い爪でいじりながらため息をつく。 いや、月一度の女子会に行くなっていう彼氏ってなんなの?そんなに毎日拘束する必要ある?拘束する人ほど自分は浮気してるケース多いらしいよ そうは返さず、わかったーとスタンプだけを送る。 皆男ができると変わってしまう こんなもんよね、と私、ミカはため息をついた。 高校の頃は、なんでそんなことにお金を使うのか謎だが、毎日のようにプリクラを撮りにいってた プリクラをさらに加工したりして 意味分からないことをして、でも必ず『一生一緒!』なんてばかみたいな文字入りで。 けれど 結局8人いた女子チームは高校卒業以来段々と就職だ結婚だと数を減らし、集まらなくなり 次回の女子会は2人だけになった。 現在彼氏なしの暇な2人組 「エリカーもう今回のやめとく? 二人だけってさぁ……」 「そ?二人だけでも開こうよ」 「……わかった、あーもう、行こうとしてた店3人からじゃないと予約とれないのにー 今更あいてるとこなんてないよ!」 「もう宅飲みでいいかもね……ミカの家で」 テンションが上がらない。 友情って脆いなあと日々思う。 女子会日当日 結局私は愚痴をいつもニコニコと笑って聞き役にまわりがちなエリカにぶつけていた。 「もーーみんな嫌い 両親も心配してきてうざいし 職場の上司はくさいし 元彼もあんなに頑張ったのに終わるときあっさりだしさー友達も自分が男できるとそっち優先だしさー皆どうせ居なくなってくし でね、ほんとひどいの あ、この愚痴は元彼のなんだけど 元彼ほんと金ないやつでさ あいつのせいでもーーいろんな傷がのこったんだけど 昔の私はあんなにカフェの値段みるタイプじゃなかったのに彼が毎度 毎度よ?!コーヒー600円かあ この薄さで、家で淹れるとこのクオリティでこの値段なのにーて 店入ってからもつぶやくから それまでおいしいと思ってたのがこっちも値段ばっか気になるようになっちゃったしさ こういうの楽しめてこそ日本人なんだとかいいながら 春は毎晩夜桜みにいったよ?公園 公園デートでかかる料金0円だよ?! 大学生で?!おかしいでしょ そりゃ夜桜は風情あるかもしれないよ?!でもケチじゃない人が年1で綺麗な夜桜みせてくれたらときめくけど毎日金ないっていってるやつと夜桜見に行きまくってたら 楽しみが自然見るしかないやつなんだよ! 虚無桜なわけそんなん」 「あ、ミカちゃんが桜嫌いな理由って元彼のせいなんだ」 「そう、元彼のせいで色々なもの嫌いになったね 桜と公園とふとしたとこに咲く花と自販機とコンビニと駄菓子が嫌いかな」 「ふーん」 二人共ほろ酔いしか飲んでいないが すっかりめんどくさいモードになった私の手を エリカは引っ張った。 長い、茶髪がさらりと揺れる きれいな髪をしている なんのトリートメント使ってるのか今度聞いてみよう なんで目の前にいるのに今度と思ったかというと エリカの様子がなんか変だったからだ 珍しく、なにか言いたい感じの エリカにつれられて外に出た先は 大きな桜の木 わずかな街灯がそれを下から照らし 昼みる姿とはちがいすべてを覆いこみ すこし怖いような、美しい花びらたち。 ……そういえば、元彼思い出すから嫌い嫌い 思いながら もう数年 久々にちゃんと見たかも エリカはレジャーシートを敷き サンドイッチやお菓子やお酒を並べはじめた。 「どうせならここで飲み直そう」 「えー」 「ミカはさ、その元彼だけじゃなくてその前も前も6回くらいいままで彼できたことあったけど その度に音楽が嫌いになって、映画が嫌いになって、本が嫌いになって…… そのままだったよね」 「…………」 「それじゃ人生つまらなくなっちゃうよ 心配だったんだ だからこの桜から思い出を作り直そう 世の中、楽しいことで溢れてるんだから」 「……うん」 たしかに、そのあとお菓子つまみながら みた桜は悪い感じではなかった。 私を苦しめていた男たちの顔が消えていく というか、とっくに思い出になっていたことに気づく。 「……エリカ、さっきはごめんね みんな嫌いとかいってさ エリカは付き合ってくれてるのに まだ残ってる友達を目の前にどうせ皆いなくなるって ひどいよね」 「ふふ、まあひどいよね ちなみにさ、ミカ 私いま彼氏いるよ」 「え?!じゃあなんで……」 「べつに彼氏いるとかいないとか 関係ないからだよ 私がミカに会うことに、それらは関係ない 就職とか、結婚とかも同じ 回数は減るかもしれないよ?でも もうその人のために一ミリも時間使いたくない とはならない それはなにか環境がかわった以外の別の縁を切りたい理由があるってだけだとおもう 私はどんなになってもミカと月イチで会いたいな 今、楽しいもん ミカはどう?」 「…………そっか ありがとう、エリカ」 私も、私もたのしい。と返す 「来月ー……映画つきあって もしかしたら、またいいって思えるかもしれないから」 「うん、楽しみにしてるね」 しょーもない理由で桜を嫌いになったのなら また、好きになる理由も、きっと  しょーもなくていいんだろう。 別に、この子と家庭を築くわけでもない 一番大切ってわけでもない 命をかけて守れるわけでもない 交わした約束だっていつかきえて 月イチで会わなくなるのかもしれない きっとそうなっても死ぬほど悲しくはないし 彼と別れるに比べて半分以下のダメージしかなさそう 一番仲良しでもないしさ 全然特別じゃないんだ 私とこの子は それでもなにか、どこか 人生が豊かであるために 必要なあなたの手のひらを 「エリカって桜みたい」 「え?!嫌いだったってこと?!」 「いや、よくよくみたら魅力的ってこと」 大切に、繋いでいきたい。 end
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