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その1.公爵令嬢と作戦会議。
その知らせは穏やかな午後の時間に唐突にもたらされた。
「私、悪役令嬢になろうと思うの」
バンッとドアを開け開口一番にそう高らかと宣言したのは、シルヴィア・ブルーノ公爵令嬢。
学園帰りのシルヴィアは制服姿のまま仁王立ち。
交戦的な濃紺の瞳にはありありと『やってやんよ』と書かれていた。
そんなシルヴィアの決意表明を受けて、
「いいんじゃないですか?」
いっそ縦ロールとかにしちゃいます? と全肯定で親指を立てたのは、ベル・ブルーノ公爵夫人。
シルヴィアが一番頼りにしている義理の姉兼親友である。
「ベルならそう言ってくれると思ってた!!」
さすがベル! 話が早いと親指を立て返したシルヴィアに、
「いや、良くないよ!?」
公爵令嬢が何言ってるのかな!? って言うかベル煽るのやめてくれる? と即止めに入ったのはルキ・ブルーノ公爵。
シルヴィアの兄にして、彼女の実質的な保護者である。
「うわぁ。なんでお兄様がいるんですか!?」
今、平日の昼なんですけど!? とシルヴィアは心底バツの悪そうな顔をする。
わざわざ兄が出勤しているだろう時間帯を狙って自主的に早退してきたというのに、計画即バレ。裏工作して来た努力が水の泡である。
「外交省勤め、それも管理職であるお兄様が白昼堂々とおサボりだなんて、部下に示しがつかないとお思いになりませんの!?」
シルヴィアは一縷の望みをかけてルキに今すぐ仕事に行くべきだ、と主張するが、
「代休。ようやく大きな商談が落ち着いたからね」
今時は管理職だって休むんだよとキラキラした笑顔を浮かべ応戦する。
「で、そんな平日の昼間に学園にいるはずのシルが何で家にいるんだろうか?」
今は授業中のはずだけど? と言ったルキにじっと濃紺の瞳で圧をかけられたシルヴィアは助けを求めるようにベルへと視線を向ける。
さて、どうしたものかとベルが思考を巡らせたところで大きな泣き声が屋敷に響く。
「あらあら、二人が騒ぐからリヒトが起きちゃったじゃない」
そう言ってベルは慣れた手つきでベビーベッドから最愛の我が子を抱き上げる。
リヒト・ブルーノ。公爵家嫡男にして待望の第一子だ。
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