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「うわぁ、ごめんなさい。もしかして、リヒト寝たばっかりだった?」
「ふふ、大丈夫ですよ。そろそろお腹がすく時間だったのでしょう」
そう言って愛おしそうにリヒトをあやすベルと、
「ベル。代わるよ」
いつの間にか用意したミルクを手に当然のようにそう言って手を差し出すルキ。
リヒトが生まれた当初は何をするにもオドオドしていたとは思えないくらいの手際の良さである。
「ルキ、せっかくの休日なのに」
「まぁ、これがやりたくて休み取ってるから」
ルキはベルの手からリヒトを抱き上げると、
「ベルも休憩しておいで。2人でお茶でもしてくるといい」
シルは君に話があるみたいだしと優しくベルにそう言った。
「えっ、いいの?」
ぱぁぁぁーと表情を明るくしたベルに、
「いいよ。たまには任せて」
クスッと笑って大丈夫と告げるルキ。
ルキを見ながら大きな濃紺の瞳を瞬かせたシルヴィアは、きっと貴族それも公爵が自ら進んで我が子の世話をするなんて兄くらいではないだろうかと思う。
「わぁ、ありがとう」
満面の笑みでお礼をいうベルを愛おしそうに見つめながら、
「ふふ、こっちこそいつもありがとう」
そう言って穏やかな表情で笑い返すルキ。
シルヴィアはそんな光景を見て心が温かくなる。
「よし! じゃあさっそくですけどシル様、ぱっと着替えてとりあえずお茶にしましょう!」
温室のお花が見頃でしたよねとベルが嬉しそうにシルヴィアを誘う。
「あーでも"悪役令嬢"とかわけの分からない話全肯定はダメだからね?」
「そこはシル様の自主性を尊重するとこでしょ!」
「いや、そこは止めようよ。義姉として」
「えー大丈夫だって」
だってシル様よ? と言ったベルは、
「何をしたって私達の可愛い可愛い可愛い自慢の妹じゃない」
だから大丈夫、と全肯定の姿勢を崩さない。
大好きな兄がいて、頼りになる義姉がいて、可愛い甥っ子までいる。
ひとりぼっちで屋敷にいた時にずっと欲しいと願っていた、物語の中でしか知らなかった家族の形。
こんな未来、ほんの数年前までは想像できなかった。
そして、そんな今が当たり前の日常としてある事にシルヴィアは心から感謝したくなる。
だから、私は私の大事なモノを守るために戦うのと改めて決意したシルヴィアは。
「ベル、今すぐお茶会よ!」
と宣言し、着替えてくるわと駆け出した。
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