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「ん……んんっ! あ……」  これが口付けと言うのなら、僕がやっていたのはなんだったのだろうと思うほど、リュシオンの口付けは深く執拗だった。シーツを握っていた手をリュシオンに導かれて首に回すと、心臓の音も二人が交わす口付けの音も大きく聞こえた。 「リュシオン……んぅ、くるしぃ――」 「だからといって髪を引っ張るのは止めなさい」 「だって……リュシオンが――」  苦しくて息もできないのに、やめてくれないから。 「エリー、泣くな……」  リュシオンは少しだけ息を吐く時間を与えてくれた。大きく吸って吐いて、呼吸が整うともう一度唇を舌でなぞった。 「リュシオン……っ、……あっ」  舌は唇の中ではなく首筋を辿り、鎖骨の中央にある首の付け根のくぼみを押した。  リュシオンの指先が僕の脇腹をなぞる。くすぐったくて身をよじろうとしたところで、鎖骨にカリッと歯をあてられて仰け反った。もどかしい感覚なのに、息が上がる。 「は……っ! や……あ……」  乳首の先が見える薄絹のナイトドレスの上から、リュシオンは舌を這わせた。胸の突起を唾液にまみれた舌で刺激されると、身体が跳ねる。腹の裏側が締まる感じがした。  元々の性格なのか、リュシオンは性急ではない。ゆっくり僕が焦れて泣き出すくらいに余裕がある。でも、それがもどかしい。いつものようにわけがわからなくなれば、これほど恥ずかしくはないのに。着ている薄絹がところどころ唾液を吸って更に肌色を増していく。 「素肌が見られぬもどかしさと、扇情的な肢体に無理矢理そなたを奪いたくなる。わざとか?」  涼しい顔をしているくせにリュシオンはそうやって僕に訊ねる。 「奪って――、僕の全てを奪ってください」  よくそんな言葉が口から出たと感心するくらい素直に、僕は願いを告げていた。 「そなたを傷つけたりせぬ」  紅い瞳がギラついた獣のように光彩を煌めかせているくせに、リュシオンは鉄壁の理性でそう返した。 「僕だけを見て欲しい――」  この視界に入るのは僕だけでいい。そんな身勝手な言葉が口をついた。竜は皆を護ってくれる竜なのに、僕一人のものではないのに……。 「そなたは私の唯一の番だ。そなたしかいらぬ――」  リュシオンの赤い瞳に映る僕は情けない顔をしていた。リュシオンが僕だけでいいというのが閨の睦言だとわかっているのに、全身が歓喜に沸いた。喜びを隠さずリュシオンに告げる。 「僕もリュシオンがいいです。あなたを愛しています」  リュシオンの瞳が瞬いた。 「あい……」 「愛してます」 「そなたが先に言ってくれるとは思っていなかった――」  目尻のあたりが少し赤くなって、リュシオンは僕を抱きしめた。 「ん……ふっ、あ……ッ! リュシオンっ!」 「そうだ、達く時は私の名を呼べ」  胸を唇と舌で真っ赤に充血するまで弄られた頃には、着ていた服はどこかへいってしまっていた。何もまとわぬ姿で抱きしめられて、性器を擦られる。  また僕だけ達くのか――。まだリュシオンは、衣服を纏わせたままなのに。 「あなたもっ!」  シーツを掴んでいた手でズボンの上からリュシオンの性器に触れるとそこは僕と同じように、いや僕よりも猛々しくいきり立っていた。熱いと感じたのは体温か、何かわからない。  リュシオンはフッと笑いを浮かべて僕を追い上げるために後孔に指を差し込んだ。 「ああっ! いや、そこ触ったら……達っちゃう……っ、達くっ、や……あぁ」  グイグイと強引なくらいに突っ込まれた指のせいもあって、僕はあっという間に追い上げられてしまった。 「あああぁぁぁ……リュシー……っ!」  ビクビクと身体が痙攣するのを止められない。 「いい子だ、気をあげなくても上手に達けたな」  ご褒美のように唇の端に口付けられた。 「僕ばっかり……僕もあなたの陽根を愛したいです」 「陽根……? なんだそれは……?」  お姉さん達は言っていたはずだ。貴い人は、おちんちんなどといわない。陽根だというのだと。 「えっと……おち……おちん……のことです……」  別に恥ずかしい言葉じゃないのに、声が小さくなっていって最後のちんは聞こえたかどうかもわからない。 「ん? 何を愛したいのだ?」  何故だろう、陽根というより抵抗感がある。小さい子供でも言ってる言葉なのに恥ずかしくてたまらない。見上げたリュシオンの顔が少しだけ楽しそうに見える。 「おちん……ち……」 「聞こえない」  耳がいい竜に聞こえないはずないのに。意地悪をされているのだと思うととても悲しくなってきた。 「もういいです……。服も脱いでくれないし……」  顔を見ているのも辛い。リュシオンの身体を腕で遠ざけてうつ伏せた。 「エーリッヒっ、すまぬ。いじけるでない。おちんちんも言えないそなたが可愛くて、つい虐めてしまったのだ」 「僕だっておちんちんくらい言えます……」  リュシオンの顔を見なければいくらでも言えるのに。何故かリュシオンの視線に晒されると恥ずかしくて言えなくなったのだ。 「もう少し待ってくれ。ちゃんとそなたが私を受け入れられるようになれば、服は脱ぐ。まだこんな狭いではないか……」  ぬっと挿れられた指を締め付けてしまい、「あっ」と喘ぎが口から漏れた。 「そなたはまだ力を抜くのが下手だからな……。竜の気が癒やすとはいえ、血にまみれ悲鳴を上げるそなたに無理矢理突っ込みたくはないのだ」  恐ろしい光景を想像してしまって青ざめながら頷いた。 「そなたのここが解れ、私を受け入れられるようになるまでだ……。二年もかけたのだぞ、竜にとっては生半可な覚悟でないのは聞いただろう?」 「あっ、あん……っ、聞きました……」  何をつけているのかわからないが、湿り気を帯びた指が二本挿ってきた。細く長い指だ。 「そなたは魅力的だ。清廉な気も、人を労る心も竜である私を魅了して止まぬ」 「ん……ちがっ! リュシオンが知らないだけです。あ……そこ、ゾクゾクする――」  腰の裏側のくぼみを舐められて、シーツを握って震えを逃がした。 「私が何を知らない?」 「僕は、宰相閣下の娘さんがきた時……この人じゃないって思いました。でも言わなかった……。この人なら僕の方がまだマシだって思った。んぅ! あ……拡げたら……ああっ!」  自分の矮小さを知られるのは怖かった。でも、知らないままリュシオンが間違った選択をしたと気付いたら? そちらのほうが怖かった。知られまいとして飾り続けるには、竜と番の生は長すぎる。 「またもたげてきた。気持ちがいいのだろう?」 「あ……グチュグチュ言ってる――」  あげられたお尻の入り口で水音がする。指が中を柔らかくするように揉んでは押して、強ばりを解いていく。 「そなたが思ったことは、本当のことではないか。私の気を受けてきたそなたにならあの自己顕示欲にまみれた気を感じてもおかしくはない。私の嫌う空気だと気付いたのだろう?」 「僕にそんな能力はありません……。嫉妬しただけです。女であることを誇る彼女に……。僕が女であった……ならっ、ああっ!」  竜の気を受けていない身体は鈍感で、それゆえに指の形を否応なく伝えてくる。三本、四本と増えていく圧迫感に苦しさがともない僕のおちんちんがもう無理だと泣き始めた。 「嫉妬……というといつも私が感じているあれだな。欲なくして人を求めることはないと言うぞ――」
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