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「もうっ、無理です――離して――」  汗が滴る頭を振って願った。リュシオンの指に戒められた僕のおちんちんが痛くてたまらない。 「もう少しだ」 「ああっあ……やだぁ……! あ……」  リュシオンの指が緩み、断続的に続く快感の波が溢れて止まらない。それと同時に後ろのリュシオンの指を締め付けてしまった。 「エリー? エリー?」  息ができなくて丸まった僕を焦ったリュシオンが何度も名を呼ぶ。  揺さぶられて、「はっ……ぁ……」とやっと普通の呼吸ができるようになった。 「リュシー……」 「エリー、そんなに締め付けたら抜きたくても抜けぬ……どうすればいいものか……」 「ご、ごめんなさい……」  僕は閨事が得意ではないようだ。 「いや、そなたを責めるのも違うな……。気を送れば緩むが、それでは覚えていられるかどうかわからぬ……。そなたに気を送ると、半分以上の確率で意識が飛んでしまうであろう? 覚えていて欲しいと願うのは、私の我が儘だが……」 「僕も覚えていたいです」 「私は竜であるからそなたがどれほど締め付けても平気だが、そのせいでそなたの身体に負担がかかるのは……」  リュシオンは迷うように僕の背中に口付けながら、指を引き抜いた。 「ああっ!」  リュシオンは思わず声をあげた僕を宥めるように背中に顔を擦り付けた。それすら粟立つのだからどうしようもない。 「大丈夫です。悲鳴を上げても気にしないでください」 「潔いのか男らしいのか無謀なのか……」  リュシオンは笑いながら僕を正面に向けて抱き寄せた。 「あなたが欲しいんです……」  優しい口付けをもらって、励まされるように願った。 「そなたは私を喜ばせるのが得意だな」  リュシオンはそう言って、服を脱ぎはじめた。自分とは違う男らしい筋肉がついた身体だった。全部眺めていたかったのに、リュシオンは口付けで僕を夢中にさせながら脱いでいく。 「リュシー……」  リュシオンも覚悟を決めたようだ。僕の脚の間に入って膝の裏を押し上げた。リュシオンの性器は僕のと比べものにならないほどに大きかった。それを僕の孔に擦り付ける。二人の合わさった部分がクチュッと鳴った。二年の間待ち望んだものが孔を押し広げながらゆっくりと挿ってきた。  硬くて熱い――。  僕の脚を大きく広げ高く上げる。寝台に串刺しにするようにリュシオンは腰を進めた。 「あ――……」  声は知らぬ間に出ていた。慌てて口に手を持っていって抑えるとリュシオンが気遣ってくれる。 「苦しいか?」  訊ねたリュシオンの声も震えている。首を振って大丈夫だと伝えると、フッとリュシオンは吐息を吐いた。  苦しくないわけがない。でも二年間慣らし続けた身体は、思ったより柔軟にできていた。スムーズに進んでいたリュシオンの腰が一度止まった。端正に整ったリュシオンの眉間に皺がよった。 「あ、う……、挿った……?」  手で口を押さえていたせいか少し目眩がしたように思えた。息を吐いて、吸って訊ねる。 「いや……今日はここまででいい。そなたの顔色が悪い」 「無理じゃない、もっと奥までくださいっ」 「ごねるでない。十分だ」 「つ、番になれたのですか?」  リュシオンの顔が僅かに歪む。それだけで答えはわかった。 「僕では……番になれないのですか……?」  番の基準がわからない。けれど、リュシオンのものになれないのだということだけはわかった。ヒクッと喉が震えた。口を押さえていた手から力が抜けて、吐息と一緒に嗚咽が漏れた。 「ふっ……う……」  痛みだけでない涙が零れた。胸が痛くて腹も痛い。泣くと身体に力が入ってリュシオンを締め付けてしまった。力を抜かなきゃって思うけれど、「う……」と呻く声が聞こえるとその艶やかな声に僕のお腹の中がさらにキュウとしまった。  紅い瞳を閉じたと思うと、リュシオンの腰が震えた。 「あ……んぅ……」  お腹の中が熱くなって、みっちりと一杯だった中にじんわりと温かいものが広がっていくような気がする。 「リュシー、達ったの?」  突然のことで僕は戸惑いながらリュシオンの言葉を待った。 「エーリッヒ……っ!」  リュシオンが目を開いた。赤い瞳にギラッとした何かを感じた。 「リュ……っ」  リュシオンは僕の名を呼びながら抽送を始めた。強引なまでのストロークに、「ヒァッ!」と悲鳴が空気に解ける。 「あああ……アッ!」  二年間、僕はリュシオンを受け止められるようにと練習してきたはずだ。なのに、どうして……メリメリと知らぬ場所の知らぬ扉をこじ開けられたのか――。終わりだと思っていた場所はなんだったのか、と……聞こうとしたけれど声にならなかった。  リュシオンの身体から、気が送られてきたからだ。  僕の中を激しく暴き、攻め立てる様子を見れば普段と違うことはわかる。息遣いも瞳の強さも僕が知っているものとは違う。多分、気を送っているのも無意識なのだろう。気を取り込むにつれて、痛みが少しずつ薄れていく。その代わりに敏感になった身体がリュシオンの力強い腕に震え、腰遣いに悲鳴を上げる。痛みではなく快感でこんな風になるなんて思ってもみなかった。  リュシオンから与えられるものは、甘美な毒のようにじっくりと身体を巡っていくはずなのに。 「エリーッ! エーリッヒ……」  浮き上がった腰を抱えられ、ズンズンと押しつけられる凶器。それはもう陽根だとかおちんちんだとかいうような代物ではなかった。 「あ、あ、あ……ひっあ――……」  僕が悲鳴を上げてリュシオンが止まらないなんておかしい。リュシオンが正気でないと気付いたのは、痛みから逃れたからだった。結合した部分があたる度に送られてくる気の量は今までで最高のもの。僕の身体は僕の意志を無視し、逃したくないのだと縋るようにリュシオンを締め付けて絡みついた。自分の身体でありながらどうすればいいのかわらかないままに、身体だけが拓かれていく。貪欲に全てを吸収しようとする。 「あ、ああっ! もっと……っ!」  これ以上いらないと思っているのに更なる気を求めて口が勝手に開く。このままおかしくなって、自分でないものになってしまうんじゃないかと不安が押し寄せてくる。何故か、お姉さん達に教わったことが次から次へと走馬灯のようによぎる。 『男は夢中になるとこっちの様子に気付かないからね』 『しっかり前戯してくれる人なら大丈夫よ』 『嵐はいつか止むわ……』  ああ、それが一番近いかもしれない。でも一週間でも眠らずにいられるリュシオンに通じるのだろうか。僕の気が触れても、リュシオンは気付かないだろう。壊れた僕を抱きしめて慟哭するリュシオンを想像してそれだけは嫌だと思った。
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