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(……?)
慌てて電話に出る。
「母さん?」
それは永遠の別れをしたはずの我が子の声だった。
「和希? 今、どこなの?」
「え? 今? 一度アパートに戻って、これから大学なんだ」
「え?」
どういうことだろうか。高速バスを降りた帰り道に、車の事故で死んでしまうのではなかったのか……。
房子はガクガクと膝が震え、その場に座り込む。
「でさ、養成所のパンフと願書、忘れて帰っちゃったんだ。今週中に出したいから、こっちに送ってくれる?」
和希の言葉に返事もせずに、房子は考える。無事に家に帰れたということは、どこかで運命が変わったのか。
でも、房子が作為的に何かしたわけではない。
ということは、和希はこれからも生きていけるのかもしれない。房子の心に希望が芽生えた。
「ね、母さん、聞いてる?」
「あ、ごめん。わかったわ。すぐ送るね」
(なぜ和希は死なずに済んだのだろう?)
それが謎だった。
「ねえ、和希。駅からアパートに帰る途中、通りの右手にコンビニあるでしょ?」
「ああ、あそこね」と和希はコンビニの名前を出す。
「そうそう。あそこには寄らなかったの?」
我ながら変な質問をしていると房子は思う。
「いや、わざわざ渡ることになるし、もう少し行けばアパート側にもコンビニがあるから、行かないな」
では事故の朝はなぜ、渡ったのだろうかーー、房子は不思議だった。
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