2. 夢の老人

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2. 夢の老人

 ある晩、房子は夢を見た。  買い物途中にあの神社に寄る夢だった。いつもと同じように祈っていると、不意に目の前から、「そのコロッケとやらはうまいのか」と声がする。  顔を上げると、古くて小さな社殿の階段に、白髪で白い髭を生やし、白い着物に白い袴姿の老人が腰掛けてこちらを見ていた。 (神社の宮司さんかしらーー?) 「コロッケですか? ええ、美味しいですよ」  答えながら、房子はこれが夢だと気づいた。 「お前は面白いな」  老人は言った。 「え? なんでですか?」 「息子が死んだというのに、『生き返らせてください』ではなく、『コロッケ』だものな」    笑われた気がして房子は憤慨した。 「だって、願ったって死んだ子が戻ってくるとは思えませんもの。だったら、せめて最後に好物のコロッケを食べさせてやりたいと思うのが親心じゃないですか」  夢の中と思えば、口答えもできた。 「まあいい。お前さん達はずっとわしの所に(もう)でてくれたから、その望みを叶えてやる」 「本当ですか?」
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