3. あの日へ

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3. あの日へ

(やっぱり夢だったんだ。でも、あの子には会えなかった……)  目が覚めた房子は真っ先に思った。夢には続きがあって、息子に会えるのかと思ったのに、朝になっていたのでがっかりした。 (おじいさんの嘘つき)  そろそろ起きなければと布団をめくろうとして、房子は違和感に気づいた。布団が薄い。  慌てて房子は身を起こす。初冬になり羽毛布団に替えたはずなのに、薄い布団で寝ていた。 (どういうこと?)  置き時計を見るとまだ六時前なのに、外は明るい。 「えっ?」  思わず声を上げ、もう一度デジタルの置き時計をまじまじと見た。  日付が和希の命日の前日に戻っていた。  房子は夢ではないのかと頬を叩く。しかし、痛みがあるだけで、目が覚めない。夢ではないようだ。 「嘘……。あの日に戻ってる?」 (それなら、和希を死なせないようにできるかもしれない!)  しかしそんな希望は一瞬で萎む。夢の中で老人は言っていた。 ――『コロッケを食べさせる』こと以外をお前の意思で変えようとしてはならない。そんなことをした途端、息子は永遠に無間地獄に落ちて苦しみ、生まれ変われなくなるーー ――他の人間を使って、息子の死を止めようとするのもだめだーー とも。  つまり夜行バスに和希が乗るのを房子が阻止するのも駄目だし、牧夫に言って息子を酔い潰して無理やり家に一泊させるのも駄目なのだ。  それで房子自身が永遠に無間地獄とやらで苦しむ分には構わないが、大切な我が子が苦しみ生まれ変われないのは困る。  牧夫にも息子自身にも知らせず、自分だけが明日、息子が死ぬのを知りながら普通に接するというのは(つら)い。 (私にできるかしら?)
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