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4. 息子の帰宅
午後四時になり、前回同様、前触れもなく和希は帰宅した。
一度は永遠の別れを告げた我が子が、生きて目の前に立っている。房子は思わず泣きそうになるのをぐっと堪えた。
「まあ、びっくり。どうしたの?」
房子は言った。びっくりなんてしていなかったが、なるべく前回をなぞろうと思った。
「うん。夏も帰って来られなかったから」
「泊まれるの?」
わかっていながら、聞いてみた。
「ううん。夕飯食べたら、夜行バスで帰るよ」
『せっかくなら泊まっていけばいいのに』と言うのはやめた。それで泊まると言われたら、無間地獄が待っている。
「何が食べたい?」と房子が聞くと、「そうだな。コロッケかな。母さんのコロッケ絶品だから」と言う。
「あら、ちょうど良かったわ。今日、コロッケにしようと、たくさん作ってたの」
ここが今回は違う。
「ラッキー!」
和希はそう言って牧夫がいるリビングルームに向かった。
房子は二人にお茶を出すとキッチンに戻った。具の粗熱が取れたので、丸く成形してバッター液につけ、薄力粉、パン粉をまぶせば揚げるだけだ。
(確か父子の言い争いが始まるのは、私が買い物から帰る頃だから五時頃だったわ)
房子はできれば口喧嘩が始まる前に作り終えて、二人に食べさせたかった。牧夫と和希の最後を喧嘩別れで終わらせたくなかったのだ。
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