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1. 最後の夕食
「あれが最後の夕食になるなら、コロッケを食べさせたかった。和希があの世でおじいちゃんに、コロッケを作ってもらえていますように」
買い物に行く途中の神社で、房子は毎回少しばかりのお賽銭を入れてそう願った。
その神社はいつもひっそりとしていて、宮司が常にいるわけでもない名もない小さな神社だ。
しかし房子の家では、一番近い神社が氏神様だからと、初詣も、和希の七五三も、受験の願掛けもこの神社に来ており、息子との想い出の神社でもあった。
一人息子の和希が亡くなって四十九日が終わり、表向きは日常が戻ってきていた。
東京で大学生活を送る和希は、一人暮らしのアパート近くの、信号のある横断歩道で信号無視の車に撥ねられ亡くなった。
実は亡くなる前日の日曜日、和希は夕方になって地方にある実家に突然戻って来た。東京を午前中に出る高速バスに乗ってやって来て、夕飯を食べたら今度は深夜に出る夜行バスで東京に戻るという。
「泊まっていけばいいのに」
和希と夫の牧夫にお茶を出しながら房子は言った。
今年は就活で忙しくて夏休みは帰って来られなかったので、息子の顔を見るのは春休み以来、半年ぶりだった。
「ごめん、明日は朝から授業だから泊まれないんだ」と和希は申し訳なさそうに言う。
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