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本気で幻かと思った。思いが強すぎてついに幻覚まで現れたのかと。
「少年、何落ち込んでんの」
そう言いながら亜衣姉ちゃんが笑顔を崩さないまま歩み寄ってきた。僕は思いを悟られないように、紅潮したその顔を背けた。
「少年がそんなんじゃ、お姉ちゃんは安心して東京に行けないなぁ」
いつの間にか隣に腰掛けていた亜衣姉ちゃんはそう言いながら僕の肩に手を置いた。
亜衣姉ちゃんは僕の事を『少年』と呼ぶ。名前で呼んでほしかった。せめて名字で。でも、この距離感に満足していた僕にはとてもそんな事は言えなかった。
「もしかして、恋の悩みとか?」
図星を突かれて一瞬肩が揺れたのを亜衣姉ちゃんは見逃さなかった。
「そうかそうか、少年も成長したなぁ。お姉ちゃんは嬉しいよ。うんうん」
何もわかってないくせに!と、思わず口に出そうになった。
僕が黙っていると、亜衣姉ちゃんは僕から少し離れて、ベンチを跨ぐようにして横向きに座り直した。視界に入った亜衣姉ちゃんの足が僕の鼓動を高めた。
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