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三月
必死に勉強して、入りたかった高校に無事合格した。大好きな井森亜衣姉ちゃんと同じ学校に。でも僕、藤松勝美の気分は晴れることなく、いつもの公園で、丸太を半分に切ったような背もたれのないベンチに、俯き加減で腰掛けている。
小学一年の時、同じ地区に住んでいたこともあって、亜衣姉ちゃんはいつも僕と手を繋いで登校してくれていた。亜衣姉ちゃんは中学に上がった後も、僕を見かけては気軽に声を掛けてくれた。
憧れから恋に変わったのはいつからだか分からない。ただ、当たり前のように一緒に遊んでくれていたこの公園に亜衣姉ちゃんが来なくなった頃から、毎日のように胸が締め付けられるような気持ちになったのはよく憶えている。
でもそれは亜衣姉ちゃんが大きくなったからではなくて、公園にあの張り紙が貼られてからの事だ。
『子供の声がうるさくて迷惑しています。静かに遊んでください』
誰が言いだしたのかは知らないけれど、それ以来親たちは子供たちにこの公園で遊ぶことを禁じた。僕の親はそんな近隣住民の苦情など気にすることもなく僕を止めることもしなかったけれど、あの張り紙が貼られて以来、僕以外の誰もここには来なくなってしまった。
優しい風と共に、桜の花びらが僕を慰めるように足元で舞った。
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