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午後の業務が始まって、好みでもなんでもない海野さんからの告白なんてすぐに頭から消えていた。
もっとも、異性からの好意と言う点では、今日の午後からの仕事の活力にはなったからそれはありがとう。
「きゃあ!」
私の隣の席のパートのおばさんが大きな声を出す。
席を立ったはずみにコンセントに引っかかってパソコンの線が抜けたらしい。なんつーアナログな会社……。
「やだぁ! 画面消えたんだけど! どうしようー! 課長、どうしたらいいですかー?」
おばちゃんは失敗を物ともしない。見習いたい。
「おいおい、それデータ飛んじゃった可能性あるとかやめてよー! ちょっと森野さーん。情シスにヘルプ要請してくれる?」
「えっ?」
今、情シスって言いました?
情報システム部のことですか?
入社して六年。データ飛んだなんて一度か二度あったかないかなのに、なんで今日。せめてなんで明日じゃないの。
「森野さん?」
「……えっと、はーい。わかりました」
受話器を取る。
内線番号を調べる。
情シスっていっても周辺機器のハード面からネットワーク関連からシステム構築、運用、そして保守点検とそれはそれは多岐にわたるはずから、たくさん人材いるよね!?
でも往々にして、神さまのいたずらって幸運パターンより皮肉パターンの方が多いイメージ。
『はい、情報システムの海野です』
予感は見事に当たって、海野さんが電話に出るという奇跡が起こった。
まさか、私からの内線だって番号逆探知されて率先して電話取ったとか、ネットワークで見張られてたりしないと信じてます。
実際、私が名乗ったら相手が固まったのが電話越しでもわかったから、故意ではないとわかったけど。
「あの、パソコンの線が抜けて……」
なんつー間抜けな報告。さっきの今で、こんなミス、恥ずかしいわ。私じゃないのよ!なんてカッコ悪い言い訳もしたくなる。
『わかりました。では、まずこちらから状況確認します』
「よろしくお願いします」
リモートで調べてもらった結果、結局ここへ来て作業してもらうことなった。
海野さんが実務部隊ではありませんようにとの願いもむなしく、数分後、さっきお別れしたばかりの海野さんがやってくる。
うん、まあ、一般男子の中では上の方かな。好みじゃないけど。
「お疲れ様ですー! こっちなの! どうぞ」
おばちゃんが応対するが、すぐ隣が私の席。
海野さんも気まずそうだ。おばちゃんとのやりとり、上の空だし。大丈夫?
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