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だいたいこの手のキャラの人は顔も性格も悪くないことが多いし。
でも先輩、彼女いるんだよ。
そういうのはナシなんだよね。そこまで好みかっていうとそうではないし、リスクを冒す価値なし。
私は男が途切れないくらいにはモテる。男の誰もが私を好きになるほどのモテ度ではないけれど。
そう、つまり私は男に困ったことがない。
困ってないから、誰でもいいってわけではないし、好みじゃないけどとりあえずつきあってみるとか保険をかける必要もないんです。
そのまま私たちの隣のテーブルに席を取った先輩たちと、したらみんなでゴハンいこうよ、それは賛成です、とか話していたら、私たち女子が座っていた長テーブルの、いくつか離れた場所にいた男性がやや乱暴に立ちあがった。
食器から察するに、彼のメニューはラーメンのようだ。どうでもいいけど。
やば、と思ったのはその人が私たちの方に歩いてきたからだ。
一人で昼食を摂っていたその人には、騒いでうるさくしていたのが気に障ったのかもしれない。
しかも男は私の横で立ち止まった。ひどく険しい顔で。
「すみません、うるさくして……」
私は腰を上げて、一応謝る。
しかし、男は眉間にしわを寄せまま何も言わない。
大きな目に整った顔立ち。私のタイプではないけど、イケメンだ。
長すぎず、短すぎずな黒髪は、先輩のパーマ頭と比べるまでもなくいかにも好青年ぽい。別に丸坊主とか角刈りとかではないのに、浮わついたところがない人柄が髪形を見ただけでなんかわかってしまった。
そういえば大学の時、第二外国語で教わった中国語の先生が、「中国人と日本人を見分ける方法はヘアカットです」って言ってたなとそんなことが頭をよぎる。
つまり、目の前の男の髪型はちょっとダサかった。残念なイケメン君だ。
で、一体なんなの。何か用なの? 見ず知らずの人間に対してこの態度は異様でしょ。
いまだ立ち去ろうとしないこの人の座っていた席にラーメン鉢が所在なく残されている。もう食べ終わってるのかなと心配にさえなる。
「えっと、あの……?」
怪訝に思って首を傾げると、強張った声で男が口にしたのは謝罪の言葉だった。
「……すみません。うるさいとか、そうではなくて……」
「はぁ。では、なにか……」
御用ですか?
皆まで言わなかったのは、見るからに何か用があるらしいからだ。言葉を迷っているような仕草で、しかし続きの言葉は出てこない。
はっきりしない男。
イライラしてきたが、あまりに突然かつ予想外の襲来だったため虚を突かれたというか、とにかく私も含め固唾を飲んで見守っている。
「……僕」
ようやく絞り出された言葉のその先を、なぜか私たちは時間をかけて待った。漫画なら『ごくり』と効果音がつきそうな雰囲気。
ドキュメンタリー番組なら、スタジオゲストが『頑張れ頑張れ』って応援してるかもしれない。なんだか必死さが伝わってくるんだもん。
しかし、こいつ、何を言うんだろう。この時間を、どうオチつけてくれるのか。
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