752人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「はじめまして。海野 亜和英といいます。山海の海に野原の野で海野、名は亜米利加の亜、和蘭の和、英吉利の英でアオイです」
ウミノさんはいきなり、今までの態度とは打って変わって、しっかりと私の目を見て言った。
挨拶は大きな声でしましょうってやつ? 体育会系?
しかし、いかんせん早口&説明が難解過ぎて理解が全く追いつかない。
アメリカのア、オランダのオ……って、つまりカタカナってことかな!
「……森野くるみです」
名乗られたので名乗りかえすと、
「くるみさん……。かわいいお名前ですね、ぴったりです」
そういうのはサラっと言うんかい。っていうか、名前も知らない女の事を好いていたと? 明治か、大正か!
「もりの、くるみ、さん。」
海野さんは私の名前を繰り返す。すごく満足げな様子でしかも真面目に言っている。本気で言ってる。
あ。
ピュアだ。この男、ピュアなんだ。
埒が明かないので、話を進める。
なんで私が……、という疑問再び。
人の相性って大事だよね。とりあえず、この人とは合わない。リズムが。
常識外れの変人というわけではなさそうだけど、イライラさせられる人種。
真面目なのは悪い事ではないけど、美徳ではない。
真面目な態度は裏に隠して、ちょっと軟派なくらいを演じるのがいい男なのよ(私比)。
「あの、私、彼氏いるんで」
「え、さっき、おられないって。あっ、すみません、聞こえてしまって……あ、もちろん盗聴とかストーキング的なことはしていません!」
角が立たないお断りの常とう句も通用しない。嘘ついたこっちが恥ずかしいじゃん。
え、ストーカーかもしれないの、この人。私は顔に出てしまっていたのだろう。
海野さんは慌てて、
「いや、でも正直言いますと、くるみさんとは朝の電車がいつも同じで……。会社の方だなと気づいてから、社内や食堂でくるみさんの姿を探すようになっていつも目で追っていました……あっ、でもけして非合法なことは」
「ええ、ストーカーじゃないのはわかりましたから……」
この人、警察官とか向いてるんじゃないかな……この謎なまでの正義感というか聖人観。
真面目というより生真面目むしろクソ真面目なのは、長所ではない。むしろ短所だと思います。
最初のコメントを投稿しよう!