2.ピュアすぎる男

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2.ピュアすぎる男

*  愛と麻衣は今か今かと報告を待ちわびていた。 「要点をまとめると、くるみちゃんの手作り弁当を俺も食いたい! ってこと?」と興奮気味なのは愛。  ちょっと違う。 「真面目でいい人かもしれないけど、私は頑固で昭和な感じがした。お弁当の事だって、家庭的な女でヨシみたいな評価なんじゃないの? 結婚したら『作れ』的な意味で女は子供を産む機械で飯炊女としか思ってないタイプに見える」  麻衣は冷静だ。  確かに『家庭的』とかいう死語を使ってたな……。 「そうだね、そういうことを言いそうなタイプではあるかなー? 融通きかなくてゴリゴリに固まった固定概念の中で生きてて、頭固そうな第一印象」  顔も、話をしてみた感じも、何一つ好みじゃなくて、惹かれるものもない。  好意に悪い気はしなくても、やっぱ好みじゃない人は好きになれない。 「つかそもそも誰だよって話なんだけど」 「名前も知らないあなたのことをお慕いしていましたって、見方変えればプチストーカーだよね。家とか知られてないよねー?」 「それがさあ、今日で会社辞めるんだって」 「だからの捨て身かー」  愛と麻衣は前代未聞の白昼告白劇を納得したようだった。  さっき、海野さんと別れて二人の元に戻ってくるまでに、総務課の同期を見かけたので聞いてみたけど、 「うみのー? うーん?」と考え悩む様子を見る限り、有名な人ではないようだ。  名前だけは字面に至るまできっちりご説明があったけど、そもそもどこの所属かも言ってなかった。まあ、その肩書も今日限りなのだから私にとってもどうでもいいことだけど。 「海野アオイっていう名前で……。あ、今日で退職らしいんだけど」と、私が付け加えると、思い出しように手を打ち、 「あー、辞める人! 急に辞めるってなって、いい迷惑だよ」 「え、懲戒とか」 「いやいや、そんな大層なことではないけど。なんかねー、家庭の事情とかって。あ、やば。これ内緒」  しー、と内緒のジェスチャーを取ってから、 「システム情報室の人だよ。ま、もともと入ってきて一年にもならないし。仕事が続かない人のなのかもねー、知らんけど。なに、その人がどうかした?」  「ううん、なんでもない」  同期にお礼を言って別れたけど、少しだけ腑に落ちなかった。  ルールにうるさそうだし、人にも絶対迷惑とかかけなさそうなのに。   責任感は無駄にありそうだし、根性もありそうだ。けどまあ、空気も読めなさそうだし、融通もきかなさそうだし、職場で孤立することがあるだろうことはうかがえる。  真面目すぎるのがあだになってるなら損な性格だ。  と気づく。すべては憶測であって、実際海野さんがどんな性格かはしらない。仕事ができなさすぎてクビなのかもしれないし。  そもそも、どんな退職理由だろうと私には関係ない。  結果はともかく偶発的にだけど告白もできて、海野さんも思い残すことはないだろう。さようなら。  
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