752人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
おばちゃんは残りのクッキーをお土産にと包んで海野さんに持たせた。
おばちゃんにあげた分がなくなってしまったのに、
「いいのいいの、また焼いてもらうから」
と気前がいい。どこまでもゴーイングマイウェイ。
「ありがとうございます」
海野さんはおばちゃんに言って、次に私にも「ありがとうございます」と頭を下げた。
作業を再開し、ちょうど二時間の作業でトラブルを解決してくれた。告白うんぬんは抜きにして、ただただ海野さんに尊敬と感謝。
「助かったわー、ありがとうね」
「いえ、お役に立ててよかったです」
「またトラブっちゃったときにはお願いしまーす」
おばちゃんのぶりっこにも動じず、海野さんは笑顔でそれに応えているが、まっすぐで善意のかたまりのようなこの人は、きっと他人に対し、イラっとすることなどないのだろう。
それに引き換え、私はなんてさもしいのだろう。
「では、私はこれで失礼します」
「はーい、お疲れ様でしたー」
海野さんはご丁寧に私にまで一礼して、部署へ帰って行った。
ああ、おそらく今日で退職だからもう仕事がなくて暇なんだ。だから「お前行ってこい」とか言われてうちへ向かわされたのかもしれない。
ここで再会したのは、運命とか皮肉じゃなくて道理だな。
「ねぇねぇ、彼、なかなかいい男じゃない? 頼りになりそう。くるみちゃんどうよ?」
「あー、あの人、今日で退職されるらしいですよ」
仕事の手も止めず、おばちゃんの方も見ずに言ってやった。
「いつのまに! すでにリサーチ済? ちゃっかりしてるわねぇ」
パソコントラブル時に助けてくれるサポートの人って、無条件にカッコよく見えちゃうのは海野さんじゃなくてもあたり前。
出会う順番がちょっとだけ違ったら……いやいや。首を振る。
やっぱり私にはピュアすぎる。
最初のコメントを投稿しよう!