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「だって…、別にそれを知らなくても月氏の皆のことは好きだし…あ、月鬼以外ね。私はどうせどこかにお嫁に出されて、全氏を出てしまうもの。知ったところで、私は月氏の皆に何か出来るわけじゃないわ」
言い直されたのが多少気に食わない月鬼だったが、何だか全てを諦めてしまっているような口振りに、何も言えなかった。
雪花は本心で言えば、全氏一族のために身を捧げたかった。けれど、女である自分には、嫁ぐことくらいしか、出来ることはない。
一般的な教養も含め、いざというときの自身の守り方などは一通り修めたが、自分の一族の歴史や月氏一族の関係を含めた過去のことなどは、家を出る身としては正直なところどうでも良かった。
兄様達のように男だったら良かったのに…。
上2人の兄達を思い浮かべながら、そのように思うことは昔からだ。着飾ることは嫌いではなかったけれど、戦場を駆け抜けたり、政について父と語り役に立ちたかった。
「…お母様が生きていらしたら、もう少し考え方も違ったのかしら」
雪花は窓の外を見ながら、そっと静かに呟いた。
雪花には母がいない。彼女を産んで直後、流行り病で亡くなってしまった。そのため、母との想い出がなく、父も兄達も忙しくしていたため、幼い頃は特に寂しい想いをしていた。
「…ねぇ、月鬼。久々に月詠に会いたいのだけれど」
「母さんに?」
聞き返された雪花は頷いた。
月詠は、月鬼の母親であり、雪花が幼い頃に母親代わりとして彼女の世話をしていた月氏一族の女性である。
笑顔の優しい、とても温かな女性であった。母と言うのは、こういう人のことを言うのではないか、と雪花は思っていた。
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