8.初めて気づいたこと

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聞いたとしても、一時は危なかったし、今は眠ったままなのだから。 一方、栄達はそのときのことを思い出しながら、話を続けた。 「そのとき僕の姿を見て、“雪花がもしも自分を責めていたら、絶対お前のせいじゃないから安心しろ”“俺は雪花を戦わせたくない。雪花が大切だから”…と伝えてくれ、と言っていました」 雪花の瞳から涙がポロッと溢れた。 それはあとからあとから溢れて止まらなかった。 「何、よ…それ…」 全氏一族の者として、一通りの武術も剣術も修めている雪花には意味が分からなかった。しかもそれを教えたのは月鬼なのだ。 やはり、力不足ということなのか? 大切だから戦うなとは、どういうことなのか? 「姫様…これは僕の予想ですけれど、月鬼殿にとって、姫様はたった一人の姫様なのです。大切で、守りたい。姫様に傷付いて欲しくない…多分、そんな風に思っているんだと思います」 栄達はふわっと優しく笑ってそう言った。 「そんな…そんなこと分かんないよ、月鬼…」 雪花は涙を流しながら、眠り続ける月鬼に言った。 「だからって自分がこんなに傷だらけになっていたら、私がどう思うかなんて考えたことないくせに…」 幼い頃からずっとそばにいて、実の兄達より兄のような存在だと思っていた時もあった。 時には喧嘩もして、わがままに付き合わせて、それでも離れていかないのは、単純に父からの命令があるからだろうと思っていた。 その父も、そして兄達もいなくなり、家も後ろ盾も無い状態で、自分にあるのは“全”という名だけだ。だから、いつ離れたっておかしくないのに、今もそばにいて、守ってくれている。
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