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「…ちょっと別室から検査道具を持って参りますので、姫様方はしばらくお待ちください。何かあればすぐにお呼びくださいね」
栄達はそう言うと、一旦退室した。
シンと静まり返る部屋。月鬼は未だに雪花を離そうとはしない。
「ね、ねぇ…月鬼?聞こえたでしょう?ちゃんと診てもらわなくちゃ…ね?」
雪花がそう声を掛けたが、月鬼はそれでも雪花を離さなかった。
そのうち、すすり泣く声が聞こえてきた。雪花は、それが月鬼のものだと気が付くのにかなりの時間を要した。
今まで一度も月鬼の泣くところなど、見たことはなかったから、まさか彼が泣くだなんて思っても見なかったのだ。
「………月鬼、大丈夫。私は大丈夫だから…ね?」
月鬼の背中に手を回し、優しく撫でながら雪花は宥めるように言った。
「でも…怪我させた…」
涙混じりの掠れた声で、月鬼は言った。かなり責任を感じているような声色だった。
「こんなの、あなたの怪我に比べたらなんてことないわ。それに私、元気だもの」
雪花は明るい声で、月鬼を安心させるように言った。月鬼はそこでようやく雪花を離し、彼女の表情を見た。
雪花も微笑みを浮かべながら、、月鬼の方を向いた。
「…守ってくれてありがとう。月鬼が目を覚ましてくれて、本当に良かった…」
雪花は素直に月鬼にそう告げた。月鬼は再び雪花を抱き締め、2人はしばらく何も言わずにそのままでいた。
***
「はい…もう心配なさそうですね」
月鬼を診察した栄達はそう言った。
その言葉を聞いて、月鬼本人よりも雪花がホッとしていた。
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