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月鬼が顔をヒクつかせながら問うと、
「もちろんです」
と、さらに笑顔になって栄達は答えた。
「…なので姫様、月鬼殿が僕の許可無く身体を動かすようなら、彼にこれを飲ませてくださいね?」
栄達はそこまで言うと、道具を片付けにまた部屋を出て行った。
「………一体何の薬なの?」
雪花は、月鬼にそこまで苦手なものがあることを知らなかったため、渡されたものが何なのか、全く検討もつかなかった。
問われた月鬼は、大きく溜息を吐くと、嫌そうな表情のまま、
「まぁ…平たく言えば気付け薬みたいなもの、かな…」
と言った。
「…だけどそれ、とんでもなくマズイし、気合いを入れるどころか、逆に失神しそうになるんだよ…」
「ふぅん…」
あの月鬼がそこまで言うのだ。恐らくかなり味は良くないのだろう。
「…でも」
雪花が少し間を開けて、静かに話し始めた。
「これがなくても、本当に無茶しないで。今はちゃんと休んで」
雪花は俯き、少し身体を震わせながらそう言った。月鬼が目覚めない間、月鬼までもがいなくなってしまうのではないかと怖くて堪らなかった雪花には、まだ恐怖心が残っていた。
「…それは、命令か?」
月鬼の言葉に、雪花の瞳は悲しく揺れた。
主としての命令ではなかったら、彼は願いを聞き届けてはくれないのだろうか。
ただ大切な人を失いたくないだけなのに、そんなことさえ“命令”という形でしか、彼は聞いてくれないのだろうか。
「…そうよ、命令よ。分かったらちゃんと守りなさいよね」
月鬼が目覚めて嬉しいはずなのに、とても悲しくて、雪花は視線を合わせずに月鬼に告げた。
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