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そして、今にも泣きそうな顔を見られたくなくて、ゆっくり立ち上がり、部屋を出ようとした。
「雪花?どこに行くんだよ?」
月鬼はどこかへ行こうとする雪花を慌てて呼び止めた。
「お水をもらいに行くだけ!置いてあるのが空になっちゃったから」
雪花の言葉に、ふとベッドの近くのテーブルに目をやると、空になった水差しが目に入った。
水をもらいに行くのに、空の水差しを持たない雪花に月鬼は少なからず違和感を覚えていた。
そして、月鬼はそこで初めて、雪花の右足首に包帯が巻かれていたことに気が付き、雪花が戦闘中に転んで足首を捻っていたことを思い出したのだった。
「おい、雪花。足首を怪我してるだろ?無理するなよ。お前が行かなくても、誰か呼んで持ってきてもらえばいいじゃないか」
月鬼がそう言うと、雪花はまるで睨むように彼を見つめた。
今にも、流してしまいそうな涙を必死に堪えていた。だが、月鬼はそれを知る由もなかったため、単純に雪花が何かしら怒っていると思っていた。
「少し…風にも当たりたいの」
そう静かに告げて、月鬼の応えを聞くまでもなく雪花は部屋を出た。後ろ手でドアをゆっくり閉めた直後、涙がポロポロと零れ落ちた。
「月鬼のばか…」
悲しみに暮れる雪花は涙を拭うと、痛む足を引きずりながら、部屋から少しずつ離れた。
***
雪花が部屋を出てしばらく経った頃。
知らせを聞いた栄仁が、月鬼の元を尋ねていた。
「いやぁ、良かったな!一時はどうなるかと心配してたんだぞ」
「心配かけたな。しかし、助かったよ。ありがとう」
月鬼の回復を喜ぶ栄仁に、月鬼は頭を下げながら礼を伝えた。
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