雪月花伝

8.初めて気づいたこと

すると月鬼は苦笑いをしながら、

「後悔しない、と言い切りたいところだが、多分無理だな。めちゃくちゃ後悔すると思う」

と言った。

「月鬼…」

栄仁は、そんな月鬼に何と声を掛けて良いか分からないでいた。

「本音を言ったら、他の男になんか渡したくねぇよ。…それでも、雪花が幸せならそれで良いんだ」

視線を落としながら月鬼は言った。
栄仁には痛い程、月鬼の想いが伝わってきた。出来ることなら、自分の手で幸せにしたいであろうに、月鬼は覚悟していた。

「もし…もしだぞ？雪花ちゃんがお前のことを好きになっていたらどうするんだ？」

栄仁は可能性の1つとして月鬼に問うが、月鬼は「さすがにそれはないだろ…」と笑いながら否定した。そして、

「万が一あったとしても、それはちゃんと断るつもりだ。雪花のためにも、全氏のためにもならないからな」

と、比較的冷静に答えた。
冷静さの中にどこか悲しみを感じられる表情は、栄仁からははっきりとは見えなかったが、栄仁はその空気を感じ取っていた。

だからこそ、彼は再度、月鬼に問うた。

「月鬼、もう一度聞くぞ？…お前、本当にそれでいいのか？」

栄仁はしばらく待ったが、月鬼からの返事は無かった。