15人が本棚に入れています
本棚に追加
1.“全”と“月”
大煌帝国。
煌一族によって支配されるその国は、南側は海に、残る三方は山に囲まれた国土の広い大国である。
かなりの軍事力を誇り、かつてはその力を持って国土を拡げる戦争を行う程であったが、ここ何代かの皇帝は外よりも内側の方を注視していた。それでも、当時の爪痕が特に根強く残る一部の地域では、今も小競り合いが絶えない。
そんな大煌帝国の北側、国境近くに位置するある山の奥に、ひっそりとある一族が住んでいる。
名を月氏一族。
彼らは非常に特徴的であった。
夜空に輝く月と同じ色をした瞳。
非常に高い身体能力。
寿命の長さと成長速度の遅さ。
そして、ある一定条件を満たすと、黄金色の獣に変化することが出来る…と言ったものだ。
そう、この一族はいわゆる一般的な人間とは、少し異なった性質を持った一族であった。
故に戦時中は、その身体能力の高さから、戦士として請われ、彼らはそれを生業とし、国のために先陣を切ることも多かった。しかし一方で、その見た目と特徴に気味悪がる者は、敵味方関係なく少なくはなかった。
そして戦争が落ち着いた頃、戦士として用済みになりつつあった彼らは、ついに国に裏切られた。
戦士として戦っていた者達は、あらぬ罪を着せられ、次々と処刑された。
あるいは、村を丸々1つ焼き払われ、女子供も容赦なく殺された。
全盛期には200〜300人はいたであろう月氏一族は、このとき既に30人程度まで激減していたという。
この生き残った者達だけで、何とか現在の山奥に居を構え、小さな集落を作り、隠れながら暮らしていた。
最初のコメントを投稿しよう!