15人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、突如として、彼らは隠れずに済むこととなる。
***
当時、全 奨は皇帝の命により、帝国の北側の調査に訪れていた。国境付近で何やら不穏な動きあり、との情報が入ったからだ。
彼は、帝国の頂点に立つ煌一族の傍系、全氏一族の長であった。帝国一の武将と呼ばれ、義に厚い男であったがために、皇帝はもちろん、周りからの信頼も厚かった。
調査の最中、帝国の崩壊を企んで山奥に潜んでいた隣国の過激派組織に、奨率いる調査隊が襲われた。念の為の武装は充分していたし、帝国一の武将、奨がいる部隊はそのような不測の事態でも充分対処出来る…と思われていた。
だがしかし、その調査隊の中に裏切り者が複数人、紛れ込んでいたとすれば、話は変わってくる。
裏切り者達は、隣国の過激派組織に属しており、密偵として帝国に入り、帝国民を装っていた。さらには軍部へ侵入し、時間をかけながらずっと機を窺っていたのだ。
奨はその裏切り者達によって、窮地に立たされてしまった。ただでさえ、動きにくい険しい山道。一歩間違えれば足を取られ、斜面に落ち、仮にそれでその場から逃れられたとしても、助かることはないだろう。
奨とほんのわずかに残った調査隊の隊員は、じりじりと追い詰められていた。既に幾人かの隊員が、過激派組織の手によって討たれていた。
___最早これまでか…。
そう思った刹那、黄金色の何かが奨の目の前をかすめていった。そしてそれは、複数体現れ、彼らを守るようにして立っていた。
狼…か?いや、これは…
月の光のような輝きを放つ、黄金の毛並みを誇った美しい狼のような獣達は、唸りながら過激派組織達を睨みつけた。
最初のコメントを投稿しよう!