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「…黙れ」
腹に響くような太い声。その一言で、部下を黙らせた。
「俺は…ずっとおかしいと思っていた。月氏一族は、義に厚い一族だと聞いていたからだ。だから、“裏切る”という行為をすることが不思議で堪らなかった…」
地面に額を付けたまま、奨は話した。
「本来なら帝国を出てもおかしくない。だが、こうして国の隅で暮らしている。それもこんな国境付近に…」
一呼吸置いて、奨はさらに続けた。
「有事の際は自分達が出て、一族皆で命を落とす覚悟であったな?」
そこでようやく顔を上げて、獣達…月氏一族の者達に問うた。
「…左様にございます」
月氏一族の、恐らくリーダー格である者が、静かに述べた。
「我々は帝国に忠誠を誓いました。それを果たす…ただそれだけのことです」
「あらぬ罪を着せられたのにか?」
核心を突くような奨の言葉に、リーダー格の者は、ビクッとなった。
「…はい」
そう返事をした。何かを含んでいそうだったが、あえて奨はそれ以上は聞かないことにした。
「そうか…」
一言呟くと、何かを真剣な眼差しで考えていた。そして…
「月氏一族の者達よ。悪いが、そなた達のことは報告させてもらう」
奨が宣言すると、月氏一族の者達は絶望の雰囲気に飲まれた。だが、奨はそのようなことは気にせず、続けることにした。
「そして今後は、我が全氏一族に仕えよ。我らがそなた達を保護しよう」
これには、言われた月氏一族も、仕えていた部下達も、全員が全員、驚きの声を上げた。
「安心せよ。絶対に誰にも手出しはさせぬ。皇帝陛下にもだ。そなた達は我々を救ってくれた、命の恩人だからな」
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