1.“全”と“月”

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「…黙れ」 腹に響くような太い声。その一言で、部下を黙らせた。 「俺は…ずっとおかしいと思っていた。月氏一族は、義に厚い一族だと聞いていたからだ。だから、“裏切る”という行為をすることが不思議で堪らなかった…」 地面に額を付けたまま、奨は話した。 「本来なら帝国を出てもおかしくない。だが、こうして国の隅で暮らしている。それもこんな国境付近に…」 一呼吸置いて、奨はさらに続けた。 「有事の際は自分達が出て、一族皆で命を落とす覚悟であったな?」 そこでようやく顔を上げて、獣達…月氏一族の者達に問うた。 「…左様にございます」 月氏一族の、恐らくリーダー格である者が、静かに述べた。 「我々は帝国に忠誠を誓いました。それを果たす…ただそれだけのことです」 「あらぬ罪を着せられたのにか?」 核心を突くような奨の言葉に、リーダー格の者は、ビクッとなった。 「…はい」 そう返事をした。何かを含んでいそうだったが、あえて奨はそれ以上は聞かないことにした。 「そうか…」 一言呟くと、何かを真剣な眼差しで考えていた。そして… 「月氏一族の者達よ。悪いが、そなた達のことは報告させてもらう」 奨が宣言すると、月氏一族の者達は絶望の雰囲気に飲まれた。だが、奨はそのようなことは気にせず、続けることにした。 「そして今後は、我が全氏一族に仕えよ。我らがそなた達を保護しよう」 これには、言われた月氏一族も、仕えていた部下達も、全員が全員、驚きの声を上げた。 「安心せよ。絶対に誰にも手出しはさせぬ。皇帝陛下にもだ。そなた達は我々を救ってくれた、命の恩人だからな」
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