1.“全”と“月”

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*** 月氏一族の長と奨による話し合いは数日にも及んだ。 互いに状況の把握から条件の提示まで、それは綿密に行われた。 奨の部下達は、共に月氏一族の元へ行くことに慄いていたが、数日もすれば慣れてしまい、一族に3人しかいない子供達と戯れているうちに、彼らへの見方が変わったようだった。 ようやく諸々の話がまとまり、いざ都へ帰る話になった際、別れが惜しくて泣いていたくらいには仲良くなっていた。 後日、奨によって皇帝に報告がなされ、その際に月氏一族の存在及び処遇に関しても伝えられた。 月氏一族の話に宮中はどよめくこととなったが、そんなものはどこ吹く風の奨は、半ば強引に、皇帝に自分に一任させることを承認させた。だが、月氏一族が被せられた罪に関しては、慎重に判断することとなってしまった。 それに奨は反発したが、帝国側がそう簡単に撤回出来ない理由も分からないわけではなかった。 帝国側の過ちを認めること…すなわち、皇帝への権力が失墜することと同義であった。その権力が強ければ強いほど、少しのヒビがきっかけで、一度に崩れることもあるのだ。 大国であるが故に、権力争いは激しく、現皇帝の権力が落ちたとなれば、混乱が生じる。そしてそれは、他国に付け入られ、攻められる要因となる。 奨は傍系とは言え、皇帝一族の血筋。そして帝国随一の武将である。それが分からない男ではなかった。 故に、月氏一族の存在は当面秘匿とし、全氏一族監視という名目で保護するということになった。それが今の時点で、帝国側の最大の譲歩であった。
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