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かくして月氏一族は存在は秘匿されるものの、怯えながら隠れる必要はなくなった。全氏一族により、人気のない土地ではあったが、領地の一部を住まいとして与えられ、その代わりとして月氏一族の者の中から数名が、全氏一族に仕えた。
***
「…というのが、全氏と月氏のきっかけなんですが…って、聞いてます?」
パタンっと本を閉じながら、じとっと目の前にいる少女を睨むのは、月氏一族の青年、月鬼である。
「もちろん。でも長いから飽きちゃった」
睨まれた少女、全氏一族の娘、全 雪花がにこりと笑いながら言った。
雪花と月鬼はいわゆる主従関係で、雪花の護衛兼教育係として月鬼は彼女に付いていた。
2人は容姿はさほど年齢差を感じさせないが、実際は一回り近く異なる。これは月氏一族の特徴で、寿命が長いために成長速度が遅くなることが要因だった。
「何が“飽きちゃった”だ。これ以上、どう端折れってんだよ」
盛大な溜息を吐きながら、月鬼は言う。
主従関係とは言え、月鬼は雪花に対等に接している。これは同年代の友人がいない、雪花の願いでもあった。
ただ、あくまで2人でいるときだけの話だが。
「お祖父様が月氏一族に助けられて、お祖父様も全氏一族を助けて、めでたしめでたし!…ね?これでいいでしょ?」
私ってば天才!と言わんばかりの口調で、雪花は言った。
「お前なぁ…仮にも全氏一族の姫様だろうが!もう少し真面目にやってくれ…」
月鬼は、雪花のあまりな物言いに、呻くようにしながら、頭を抱えた。
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