最後の晩餐

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 ぼくが彼女と出会ったのは、今から一年ほど前だ。気管支炎を患い入院したぼくをやさしく介抱してくれたのが彼女、津田(つだ)美咲(みさき)だった。  咳がとまらず眠れないぼくの背中をやさしく撫でてくれた手。  点滴針を刺す時の、しなやかな指の動き。  彼女の手は、今まで出会った誰よりも美しく繊細で、とびきりやさしかった。入院生活はたったの五日だったけれど、ぼくはその五日の間に深く恋に落ちた。だから、退院当日の朝、ぼくは思いきって彼女を食事に誘った。 「親切にしてくれてありがとう。津田さんが担当で良かったよ」  そうお礼の言葉を述べると、彼女は驚いたように目を見開き、ほんの少し瞳を潤ませた。 「いえ、そんな……でも、そう言っていただけてうれしいです」  感謝されることに慣れていなかったのか。彼女は、にっこり笑ったあとに、そっと目尻を指で拭った。看護師さんは感謝されて然るべき職業だ。彼女たちのやさしさは『仕事』という言葉だけでは片付けられないものがある。心が清くなければできない仕事で、ぼくらはもっともっと感謝すべきなのだ。
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