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 なんだかんだあったが楽しかった初めての遠足。 帰りのバスもはしゃぎ倒して、バスを降りる時にはフラフラだった。今日は園からは自力で帰らないといけない。  あまり乗らない電動自転車に乗って帰らないといけないのだが、私はふにゃふにゃ。 「唯、頑張って乗って……」  燈子が必死で私を自転車の後部座席に乗せる。パチンという音が首の下で聞こえたので、ヘルメットを被せてくれたようだ。  も……ダメ。ねむい。  子供になって一番最高だって思ったのはこの自転車で。人が必死で漕いでいる後ろに乗っているのはとても優雅な気分である。  浩紀は自転車事故が多いことを懸念して自転車に私を乗せるのを嫌がったけれど、燈子はペーパードライバーなので、車に乗る方が怖いと主張した。  確かに浩紀の車はいかつくて大きいのでちょっと運転しにくいと思う。  心配性の燈子は自転車の座席もいいものを買った。この後部座席、実は雨の日にはビニールハウスみたいなのがつけれて、完全個室状態になるのだ。  まだ雨の日は体験していないので早く雨が降ってほしい。 「唯、歩けないかなぁ……」  どうやらマンションの駐車場についた時、燈子の情けない声が聞こえた。  しかし私の体は指一本動かない。 「……よいしょ」  気合の入った声とともに体が浮いて、燈子に担がれたのが分かった。  頭の隅でぼんやりと、燈子が私と荷物を抱えているのを想像して笑ってしまった。  ごめんね、燈子。  でも、悪いけどなんか、幸せだよ。  そうしてようやく家に着いた私たちはリビングで床になだれ込むように倒れた。 「うわっ、なに!?」  数時間後帰ってきた浩紀が食卓に夕飯も用意されていないのを見て、急いでお弁当を買いに行ってくれた。 「死体かと思ったよ!」  と笑い話にしていたが、帰ってきたら妻子がリビングで二人転がっていたのだから驚いたに違いない。
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