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「いえ。全身全霊をもってお相手をさせていただきます」
「そういう冗談はいらないよ。アーデルハイトには良いところを見せたいんだ。協力をしてくれるだろう?」
「自力で勝利を掴まなければ意味がないでしょう」
「どうして、そういうところだけは真面目なのかな?」
「手を抜いてもアーデルハイトには見抜かれるだけですので。殿下の評判を落とさない為にも俺は全力を尽くしたいと思います」
ダニエルの言葉に対して、ユリウスはため息を零した。
彼も本気で手抜きを希望したわけではないだろう。
僅かな可能性に縋りつくような気持ちだったのだろう。
「わかったよ、ダニエル。正々堂々と勝負をしよう」
「よろしくお願いいたします、殿下」
……ゲームのイベント通りに進むのか、わかんねえけど。
三年生の公開模擬戦は乙女ゲームの序盤で行われる公式イベントの一つだ。
前世の記憶を頼りにしているとはいえ、実際にゲームを通じて経験しているイベントは多くはない。
前世では姉がネタバレを口にしていたものの、実際には最後までやり遂げていない。
ダニエルが知っているのは複数に存在する結果の一つである。
それが乙女ゲームを基準として進むものなのか、それとも、この世界で生きる者たちが基準で進められていく結果なのか。
その区別をするのは難しい。
……勝敗関係なくヒロインが割り込んでくるはず。
乙女ゲームの中心人物はヒロインであるクラリッサだ。
彼女はどのような状況だったとしても関わってくる。
* * *
「これより、ユリウス・ギルベルト第一王子殿下とダニエル・ベッセル公子の公開模擬戦を執り行います。両者ともに武器を構えてください」
公開模擬戦は時間制限を付けて行われる。
教授の目が行き届くように一組ずつ行われた為、見学をしている三年生や一年生の期待を込められているダニエルたちが最終試合に選ばれたのである。
……フェリクスとマーカスには何もなかった。
先の試合で模擬戦を行った二人はかすり傷をしたものの、簡易的な処置だけだった。
見学席に座っているフェリクスの応援の声に応えるようにダニエルは愛用している杖を握りしめる。
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