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振り落された方が危険を伴うということは身をもって知っていた。
……なんだ、これ。
思考が揺らぐ。吐き気がする。
馬小屋に到着をしたのだろう。愛馬は止まった。
それから頭を撫ぜられることを期待しているのか、甘えたような鳴き声をあげていた。
「ダニエルお兄様ぁ? どうされましたの?」
首を傾げているアーデルハイトに心配をかけまいとしたのが、いけなかったのだろう。
ダニエルの意識は消失した。
それに伴い、彼の身体をかろうじて支えていた気力も失せてしまい、愛馬から転げ落ちる。
「お兄様!?」
アーデルハイトの悲鳴にも似た声がダニエルには届いていない。
走っている状態から落馬をしたわけではない為、大けがを負ってはいないものの、明らかに様子がおかしかった。
アーデルハイトの悲鳴を聞いた使用人たちがダニエルを発見し、大騒ぎになる。
その間、ダニエルの顔色は青ざめていくだけだった。
* * *
「■■■■が邪魔なのよねえ! ちょっと、□□! これ、攻略してよ!!」
肝心な名前が聞き取れない。
ダニエルは見たことのない状況にいた。
それに驚いてなにかを言おうとするのだが、言葉にはならない。
それどころか、上手く聞き取れなかった誰かに対する返事をしている。
そこにはダニエルの意思はなかった。
「見てよ! このヒロインちゃんの可愛らしさ!」
「あー……。まあ、可愛いけど胸なくね?」
「これだから男はダメね!! 女の子はおっぱいじゃないの! ちょっと、お姉ちゃんのゲームを貸してあげるからやってみなさいよ!」
「えー? 渡されても困るんだよな」
強引に機械を押し付けられる。
……あれ。俺、これを知っている。
少しずつ景色が鮮明になっていく。
知らないはずの景色が懐かしいとすら思えてくるのはなぜだろうか。
ダニエルは姉を名乗る女性に押し付けられた機械に視線を向けた。
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