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悲鳴をあげたのは先ほどまでは笑っていた姉を名乗る女性だった。
服装が変わっているのは先ほどまでいた光景よりも時間が流れたからなのだろう。
それは夢特有の現象だった。
今度は、ダニエルは周囲を見渡すことができるように彼女たちの上にいた。
箱庭を眺めるかのように浮かんでいた。
「ごめんねえ、ごめんねえ、□□……!!」
母親だろうか。姉によく似た女性が泣いている。
棺に縋りつくように泣いている。
「なんで、なんで、アンタが死んじゃうのよ……、バカ……」
姉は泣いていた。
信じられないと言わんばかりの声をあげている。
「起きてよ。ねえ。起きてよっ!」
その声を聴きたくないとダニエルは耳を塞ぐが、意味はなかった。
泣き叫ぶ二人の後ろでは呆然とした表情の男性が立っていた。
彼らのことを知っている。
前世だと自覚をした途端に彼らの関係性を理解してしまった。
……俺は、あの時、殺されたんだ。
彼らは前世での家族だった。
不幸にも通り魔に刺殺された少年の死を嘆く家族の姿だった。
少年は家族に愛されていた。
だからこそ、少年の姉は死を受け入れらなかったのだろう。
* * *
「――ダニエル! 目が覚めたか!!」
現実に引き戻されたような目覚めだった。
頭に靄がかかっているような不思議な気分だった。
……あれは。
何度も瞬きをしているダニエルの様子に気付いているのだろうか。ベッセル公爵である父親は専属の医師に指示を飛ばしていた。
……夢だったのか。
なぜ、今になって前世の記憶を取り戻してしまったのだろうか。
それも中途半端な記憶だった。
家族に愛された少年の悲しい末路だった。
……変なゲームをさせられて……。
夢を思い出そうとする。
その夢の中で見た光景には見覚えがあった。
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