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……それにしても、悪役か。
アデラール魔法学院へと向かう馬車の中、ダニエルは考え事をしていた。
前世の知識を得たからだろうか。元々愛想が良くない自分自身の顔が悪巧みをしているようにしか見えなかった。
なにを考えていなくとも睨んでいると思われがちな三白眼、貴族特有の色白さ、それから愛想の悪さは努力ではなんともならないだろう。
愛想よく笑ってみようと練習をした結果、今にも人を呪い殺しそうな顔にしかならなかった。
……悪役一家とか言われたよなぁ。
実際は悪には手を染めたことがない珍しい貴族だ。
ベッセル公爵は領民から愛されている領主であり、その妻である公爵夫人も領民の憧れの存在だ。
子どもたちも領民からは可愛がられている。
……まあ、確かに、ゲームではろくなことをしてなかったけど。
彼らの欠点はダニエルを溺愛していたことなのだろう。
その一方、アーデルハイトには無関心だった。
無関心だからこそ、なにをしても許されてきたアーデルハイトは我儘な令嬢に育った。
それは、両親の気を少しでも引きたくて、振り向いてほしくてしくてきた振る舞いだったのかもしれない。
妹を溺愛する兄のダニエルはアーデルハイトの我儘をなんでも聞いていた。
その結果、ヒロインと敵対をすることになり、彼らは破滅の道に進んでいくことになる。
……アーデルハイトの我儘には弱いんだよなぁ。
アーデルハイトは可愛い。
アーデルハイトを婚約者にしておきながらも他の女性に現を抜かした第一王子がすべての間違いなのだと、ダニエルは言い切ることができる。
それは前世の知識を得た今でもなにも変わらないことだった。
……だから、どうしようもねえよな。
気づいた時には手遅れだった。
それならば、悪役として上手く立ち回るしかないだろう。
……証拠を残さねえように上手く立ち回ればいい。どうせ、悪役ならそれらしく振舞ってやろう。ゲームの知識があるし、なんとかなるさ。
ダニエルは馬車の中で心に決めた。
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