第一話 悪役令息、前世の知識を手に入れる

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「――意味わかんねえんだけど」  アデラール魔法学院の学生寮に到着をしたダニエルは大げさなため息を零した。  学生寮は家格によって部屋の大きさが異なる。  公爵子息であるダニエルは、当然のことながら一人部屋が割り振られていたはずだった。 「なんで、お前が、俺の部屋にいるんだよ。出ていけ」  ダニエルの部屋には既に先客がいた。  長期休暇に入る前まではその先客、フェリクス・ブライトクロイツにも一人部屋が与えられていたはずだ。  ブライトクロイツ公爵家の一人息子を相部屋にしようと企む教授はいないだろう。そうなると、ダニエルの部屋に荷物を入れたのはフェリクスの意思となる。 「おい、フェリクス。無視してんじゃねえよ」  露骨に嫌そうな表情を浮かべ、わざとらしく声を低くして威嚇をするダニエルに対し、フェリクスは素知らぬ顔で紅茶を飲んでいた。 「おい。屑野郎。聞こえてるんだろ」  ここはダニエルの部屋で間違いはない。  長期休暇に入る前に部屋に置いていた荷物はそのままだ。  愛用している家具も変わっていない。  そこにフェリクスの荷物が追加されていなければ、休暇前となにも変わらなかったことだろう。 「おい、お前、なにか聞いてねえのか」 「もっ、申し訳ございません、坊ちゃま。す、すぐに確認をいたします……!!」 「は? ……おい、待て! この状況で俺を置いていくんじゃねえっ!」  ダニエルの荷物を運んできたベッセル公爵家の使用人を睨みつけるが、彼も事情を知らないらしく慌てて確認をしてくると言い残し、部屋から飛び出ていった。 「ベッセル公爵家の坊ちゃんは一人じゃなにもできねーのかよ。使用人に置いて行かれてすげえ顔してるぜ? ダニエル坊ちゃん」  ようやく口を開いたフェリクスはダニエルを挑発するような言葉を並べる。 「はあ? そんな子どもに見えるのかよ」 「子どもくらいの大きさだな。少なくとも俺よりも小さい」 「うるさい。黙れ」  彼らはギルベルト王国を支える公爵家の生まれだ。  家格が同じ者同士なのも原因の一つではあるのだろうが、好青年のように見えるフェリクスと不愛想な悪役面のダニエルはなにかと比べられてきた。
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