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ヴィンセントとの婚約
週が明けると一通の手紙がメッセンジャーによってクスバート家に届けられた。上質な封筒にアステリア王家の封蝋が施されたその手紙は、父親を驚かせるには充分だった。
「アンジェリカ! これはいったいどういうことなんだ? アステリアの第二王子殿下が、お前に明日婚約を申し込みに来ると言っているぞ!」
アンジェリカはそれを聞いて顔を輝かせた。
(殿下……! 本当に、申し込みに来て下さるのですね!)
「大変だわ、王子殿下をお迎えするだなんて、急いで準備をしなくては」
母はアタフタと侍女頭や執事と相談し始める。父は笑顔を浮かべてご自慢の口髭を撫でていた。これはご機嫌な時の仕草だ。
「蓼食う虫も好き好きとはよく言ったものだ……モーガンの息子にくれてやるしかないと思っていたお前がこんな良縁に恵まれるとは! 焦ってモーガンに返事をしなくて正解だったのう」
よくやった、でかしたとアンジェリカを褒めちぎっている父。あまりの変わりように苦笑しながら、こんな顔の娘に王子様が申し込んで下さるのだから無理もないわね、と思っていた。
「お姉様、第二王子様ってどんな方? 素敵な方なの?」
ワクワクした顔でフローレンスがまとわりついてくる。
「そうね、フロウ。殿下は背が高くて黒髪で、涼やかな青い目をしてらっしゃるわ」
「わあ、素敵! いいなあお姉様。お姉様あんまり可愛くないのにどうして選ばれたの?」
子供らしい無邪気さで尋ねるフローレンス。だがアンジェリカは、もう気にならない。
「殿下はね、私のこの顔を好きだと言って下さったのよ。自分に自信を持ちなさいって教えて下さったの」
「わあ、物語に出てきそうね! ロマンチック! お姉様、良かったわ! おめでとう!」
心の底から喜んでくれているフローレンスの笑顔に胸が熱くなる。
「ありがとう、フロウ」
兄のデイビスも側に来て、アンジェリカの頭をポンポンと撫でてくれた。それだけで、兄の優しい気持ちが伝わってきた。
(私はみんなに嫌われていると思っていた。でも、違うんだわ。私の気持ちの持ちようでこんなにも世界は変わる)
アンジェリカは嬉しくて幸せで涙が出そうだった。
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