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ヴィンセントに同行して来た者の中に、一人、とても若い男がいた。長い銀髪にグレーの瞳、ヴィンセントと同じ年か少し下くらいにしか見えない若さだが、どうやらかなり位が高いらしく皆が丁重に扱っている。その男はアンジェリカをじっと見つめていた。
その視線に気がついたアンジェリカだが、それは嫌な視線ではなく、むしろ温かい……慈しむようなものだった。
「アンジェリカ、彼はゼイン。我がアステリアの誇る優秀な大臣だ」
アンジェリカの手を引いてヴィンセントがゼインを紹介する。
「ゼイン様、アンジェリカと申します。よろしくお願いいたします」
淑女の礼を取るアンジェリカにゼインは尋ねた。
「アンジェリカ様。十八歳のお誕生日はいつですか?」
「え? ……はい、明後日です」
ゼインはニコッと笑った。
「ありがとうございます。あなたに、神の御加護がありますように」
それだけ言うと、ゼインはサッとその場から立ち去っていった。
「なんだか、不思議な方ね。初めてお会いしたのに懐かしいような……」
「うん、彼はね、特別なんだ。我が国の宝だよ」
ゼインを見送っていたアンジェリカに母が声を掛ける。
「アンジェリカ。殿下に庭園をご案内して差し上げなさいな。お茶の支度をしておきますからね」
「はい、お母様」
アンジェリカは大好きなノウゼンカズラの咲く庭へヴィンセントを連れて行った。
「この花が大好きなんです。空に向かって咲くオレンジ色の花。花言葉は、『華のある人生』なんです。私には似合わないってずっと思っていたけれど……」
「だめだよ、アンジェリカ」
「はい。今は、私のためにあるような花だって、そう思います」
「よくできました」
ヴィンセントは微笑んでアンジェリカの手を取り、その甲に口づけた。
突然のことに驚くアンジェリカを、ヴィンセントは悪戯っぽい上目遣いで見つめていた。唇が触れた手も、視線が絡まった瞳も。全てが熱を持ち始め、頬が薔薇色に染まっていくのを感じる。
(私は、世界一幸せだわ。こんな顔だって関係ない。私は、私を好きでいたい)
アンジェリカの『華のある人生』は今、幕を開けたのだと感じた。
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