誕生日の悲鳴

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誕生日の悲鳴

 翌朝、クスバート家の屋敷に悲鳴が響き渡った。 「何だ? どうしたんだ」 「アンジェ? アンジェの部屋だわ」  父と母は寝間着のままで使用人を連れてアンジェリカの部屋に急いだ。まさか強盗でも?   部屋に入ると、アンジェリカが鏡の前で顔を覆って震えていた。 「アンジェ! どうしたの? 何があったの?」  母が、アンジェリカを抱き締める。顔を覆い隠そうとするアンジェリカの両手を、父が強引に開こうとした。 「やめて……! 私の顔が、変なの……!」  アンジェリカは泣き叫んでいる。 「変とはどういうことだ。見せてみろ、アンジェリカ!」  アンジェリカの力が抜けた。父がゆっくりと両手を顔から引き離すと、そこには昨日までのアンジェリカと全く違う顔があった。 「アンジェ……?」  父も母も使用人達も、呆気に取られた。なぜなら、いつもの長い頬、左右に離れた小さな目、そして大きな鼻がそこに無かったからだ。  代わりにあるのは、長いまつ毛に縁取られた美しい菫色の大きな瞳、形の良い鼻、そして花びらを重ねたような愛らしい桜色の唇。肌はシミもそばかすもなくすべすべとして陶器のようで、それらが全てすんなりとした輪郭の中にバランス良く収まっていた。  くすんでいた金髪は輝きを取り戻し、柔らかなウェーブがふわふわと背中を覆っている。 「アンジェ! 急に美人になって、どうしたの?!」 「絶世の美女じゃないか! 一体全体、どうしてこんなことに?」 「わからないわ! ゆうべ、念入りに顔のお手入れはしたけれど、それだけよ! 私、全く別人の顔になってしまったわ!」 「でもアンジェ、六歳までのあなたの面影そのままだわ? そうよ、あのまま育ったらきっとこんな風になると思っていたのよ」 「そうだぞ、アンジェリカ。美しくなったのだからいいではないか」 「だって……! ヴィンセント殿下は、昨日までの私を好きだと言って下さっていたのよ! それなのに、こんなに顔が変わってしまったら、もう好きでいてもらえない……!」  アンジェリカは泣き崩れた。 「そんな、アンジェ……そんなことないわよ、殿下なら」 「だって、殿下はいつもの顔を褒めて下さっていたの。この顔が殿下の好みじゃなかったらどうしよう、お母様……!」  母は娘をただただ抱き締めることしか出来なかった。それにしても、これは一体どういうことなのか? どうして一晩でこんなに顔が変わってしまったのだろうか?  
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