誕生日の悲鳴

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「魔法……?」  涙に濡れた顔でヴィンセントを見上げるアンジェリカ。 「そうだ。君の顔は、魔法で全然違ったものに見えるようになっていたんだよ」  父も母も、ポカンとしている。 「つまりね。ある人間が君に魔法をかけた。その魔法により、他人からは君は違う顔に見えるようになった。しかも、君自身にも魔法はかかっていて、鏡に映る自分もその顔に見えていたんだ」 「じゃあ、今の顔が本当の顔……?」 「そうだ。君はとても美しく成長していたんだよ。だがその魔法のせいで、自分からも他人からも違う顔のように見えていたんだ」 「でも、殿下は……」 「僕には、君は最初から美しく見えていたよ。だからどうしてみんなが君を可愛くないと言うのか全くわからなかった。アステリア王族には魔法使いの血が流れていると言われている。だから、魔法に惑わされなかったのだろう」 「では、婚約は……」 「もちろん、継続だよ! むしろ、はやく結婚して君を僕のものにしないと世界中の男たちが君に求婚しに来るんじゃないかと心配でたまらないよ!」  ヴィンセントはアンジェリカを抱き締めた。 「殿下、私でいいんですか……?」 「ああ。もう一度言うよ。僕と、結婚して下さい」  ヴィンセントはサッとひざまづくとアンジェリカの手を取り口づけた。  また涙をあふれさせながら、頷くアンジェリカ。  母も泣いていた。そして父はある疑問を口にする。 「ですがヴィンセント殿下。一体誰がこんな酷い魔法をアンジェリカにかけたのですか?」  スッと立ち上がったヴィンセントが落ち着いた、しかし怒りを滲ませた声で答えた。 「ウォルター・モーガンです」 「ウォルターが?!」  アンジェリカは驚いた。 「六歳の誕生日パーティーで君に一目惚れしたウォルターは、偶然魔法の書を手に入れ、それを使って君に魔法をかけたんだ。その代償に彼の生命力を使うことで長期間の魔法を維持していた。だから彼は病弱だったんだ」 「そんな……なぜ彼はそんなことを?」 「君を手に入れるためだ。公爵家の君と男爵家のウォルターでは、普通なら絶対結婚はできない。だが君が変な顔になれば誰の目にも止まらないし結婚話も持ち上がらない。そうなれば、男爵でも結婚させてもらえるだろうと思ったんだそうだ」 「何と……何というあさましい」  クスバート公爵は唇を噛んだ。 「ウォルターが君を貶してばかりいたのも、君が他の人と仲良くならないように、君が頼るのは自分だけになるようにとの思いだったらしい。間違ったやり方だったがね」
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