白い魔法使い

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※※※  ゼインは、ウォルターの部屋に来ていた。既に夜の帳が下りる頃だ。カーテンが閉められ、部屋は暗い。ウォルターはベッドで眠っていた。その顔には黒い影がかかっている。 (随分やつれてるな。もう立ち上がることも出来ないか)  枕元に、一冊の古い本が置いてあった。 (……これだな)  まずは経緯を知ろうと、ゼインはウォルターの額に手を当てた。ウォルターの記憶が飛び込んでくる。  その中から重要な部分だけを選び取った。  まず最初は六歳の時。幼いアンジェリカと出会い、恋心を抱く。だが公爵令嬢と結婚など出来ないと知って絶望。 (ふむ……その頃、彼はこの本を拾うのか)  道端に落ちていた本に呼ばれ、恐る恐る拾い上げるウォルター。中を開くと、頭の中に声が響いた。 「私は魔法使い。あなたの願いを叶えてあげましょう」 「本当に? だったら、アンジェリカと結婚させて!」 「これはまた、今すぐには出来ないお願いですねえ。まだあなた六歳でしょう」 「だって、アンジェリカはとても美しくて、放っておいたら王太子のお妃に選ばれてしまうよ! それに、身分が違い過ぎて僕とは結婚出来ないんだ」 「では、彼女が美しくなければいい。彼女の姿を醜く変えてあげましょう。そうすれば誰も彼女を欲しがらない。彼女が行き遅れて困っているところをあなたが申し込めばいい。きっと喜んで受けてくれるでしょう」 「ええっ? 彼女を醜く? そんなの嫌だ!」 「大丈夫ですよ。本当に醜くする訳ではありません。醜く見える魔法をかけるのですよ。そして、彼女が十八歳の誕生日を迎える瞬間に、魔法は解けて美しい彼女に戻ります。ですから、あなたはそれまでに彼女の心を手に入れなければなりません」 「そうか! アンジェリカが誰にも求婚されないようにするんだね! わかったよ。お願いします!」
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