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ーーゼインは、ウォルターの額から手を離した。
(哀れな……)
本に宿った黒い魔法使いに生命力を吸い取られて、もう彼は死の一歩手前だ。
黒い魔法使いたちは、遠い昔に力を失って実体化することが出来なくなった。そのため本や鏡、櫛などに宿って共鳴する人間を探す。そしてその人間の生命力を奪い、やがて死に至らしめる。そうして何人もの命を吸い取って溜め込んで、やがて実体化する。そうなると、あちこち移動して悪さをするので厄介だ。
「では今のうちに」
もう夜も更けた。そろそろ日付が変わり、アンジェリカの誕生日を迎える。
ゼインは枕元の本を手に取り、空中に放った。そして両手を翳し、何かを呟く。すると手のひらから光が溢れ出し本を包み込んだ。
「ギャアーー!」
本の中から恐ろしい叫び声が聞こえた。
「苦しい……苦しい……おのれ、白の魔法使いか……! くそう……あと少しで身体を得ることが出来たのに……!」
「はい、お疲れ様」
ゼインがパチンと指を鳴らすと、甲高い叫び声と共に本は砕け散った。そして、外から黒い影が部屋に戻って来た。
「アンジェリカにかけていた魔法だな」
ゼインは人差し指と親指を立ててよく狙い、
「バン!」
と言うとその影も霧散した。
「さて、と……」
ベッドのウォルターの顔を覗くと、先程までの黒い影は消えていた。
「これで命だけは助かるだろう。牢屋に行くことにはなるがな」
魔法と共鳴する人間は、魔に囚われやすい性質を持っている。再び魔法騒ぎを起こさぬように、一生幽閉されるのが決まりだ。
ゼインは外に待機している軍に合図を送り、ウォルターを逮捕するよう指示を出した。
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