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「昔から、ときの権力者が最後に望むものといったら決まっている。それこそ他人の命なんて比べ物にならない。実際にあの少年が本当に貴石を生み出せるかは別として、そんな者がもし存在するなら、それはその国だけでない、どの国も喉から手が出るくらい手に入れたいと考えるだろうさ。だが、それがあの少年にとって幸せかはわからないな。俺だったら死んでもそんなものにはなりたくない」  オースティンはただのたとえ話だと思っているようだったが、ヒースは知っていた。少なくとも、そのおとぎ話の一部が事実であることを。人々が貴石と崇めるその石を、シュイが実際に流せることを。そう、少なくとも以前までは――。  子どものとき、ぽろぽろと泣いていたシュイは、いつしかたいていのことでは泣かなくなった。ヒースが泣いてはいけないとシュイに言ったからだ。シュイの秘密の石を、誰にも知られてはいけないと思ったから。  国に莫大な富をもたらすはずの石が涙を流さないとしたら、その石はどうなるのだろう。大切にしてもらえるのだろうか。  がくがくと身体が震える。全身が氷のように冷たかった。脂汗が滲むのを、ヒースは必死に堪える。食べたものをそのまま戻しそうだった。 「間もなく午後の部が再開します。出場者の方は集まってください」  係員の呼びかけに、出場者たちは重たい腰を上げる。 「おい、大丈夫か? お前なんだか顔色が悪いぞ」  ヒースの顔色の悪さに気づいたオースティンが心配そうに訊ねる。だが、ヒースは何も答えることができない。  再会したとき、別人のようだと感じたシュイの姿を思い出す。地面に横たわる血塗れの敗者を係りの者が引きずっていく姿を、貴賓席から無表情に見下ろしていたシュイの冷たい顔を。会えなかった数年間、シュイがいったいどのように過ごしていたのかをヒースは知らない。シュイが幸せだったらそれでいい。だけど、もしそうでないとしたら自分はどうすればいいのか。シュイが泣けなくなった理由があるとしたら、それは自分が原因だ。自分がシュイにもう泣くなと言ったから――。  シュイ……!  目の前が暗くなるのを、ヒースは必死で堪える。いまは試合のことだけを考えなくてはならないのに、どうしても別人のようなシュイの顔が頭から離れなかった。
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