プロローグ

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プロローグ

 森の中、月の光がきらめく湖のほとりに、二人の子どもがいた。一人の子どもは泣いていて、もう片方の子どもがそれを慰めている。 「――……、泣いたらだめだ」  幼さの残る声に、泣いている子どもが顔を上げた。銀の髪を顎の長さで切り揃え、いまにも零れ落ちそうな涙を瞳にたたえている子どもは、まるで女の子のように整った顔立ちをしている。そのとき不思議なことが起こった。ふっくらとした幼い少年の頬を濡らすかと思われた涙はきれいな円をつくると、次の瞬間硬質な石に変わって、子どもの瞳からころりと転がり落ちた。 「あっ」  泣いている子どもを慰めていたもう一人の子どもは、大きく目を見開いた。その黒い瞳はまだ幼いのに、どこか利発そうな光がある。  一度我慢の決壊をこえた涙は次々と子どもの瞳からあふれ、それはころころと光輝く透明な石になって地面に転がった。 「あーあ」  一緒にいた子どもが驚いているようすはなかった。子どもは地面に落ちた虹色に輝く石を拾い集めると、泣いている子どもの顔の前に差し出した。 「見て。……が流した涙の石だ。きれいだね」  子どもの言葉に、泣いていた子どもが澄んだ水色の瞳を向けた。長いまつげが濡れていた。冬の晴れた空のような色をした瞳が、きらきらときらめく。  子どもはにっこりと笑うと、泣いている子どもに手を差し出した。 「だけど、これはきっと誰にも知られちゃいけないことだ。だから、約束して。誰にもこのことは言っちゃいけない。もしどうしても泣きたくなったら、ひとりで我慢しないでおれを呼ぶんだよ」  泣いていた子どもは瞼を拭うと、自分に差し出された手を取った。先ほど拾った石を、二人の子どもは翡翠色をした美しい湖に沈めた。このことは、自分たち以外の誰にも知られないよう、固く誓って。  子どもたちは手をつなぐと、何事もなかったように村へと戻る。後には、子どもたちの秘密をのみ込んだ湖を残して――。
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