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「ヒース、覚悟!」  ぼんやりと考え事をしていたヒースが振り向くと、すぐ顔の前に木製の剣が迫っていた。 「え……?」 「わっ、ちょっ、ヒース……っ!」  攻撃を避けることなく額で受け止めたヒースはその場に尻餅をついてしまう。むしろ攻撃を仕掛けたタイシのほうがぎょっとなった。すべてを目撃していたジュンシとダーチが慌ててヒースたちの元へと駆け寄る。 「ヒース大丈夫か!?」 「何ぼんやりしてるんだよ! 手合わせの最中に考え事をしているやつがあるか!」  少年たちがけがの具合を確かめる中、ヒースは上の空で「うん、ごめん……」と答えた。タイシたちが気まずそうに顔を見合わせるのにも気づかず、起き上がると、尻についた砂を払った。 「シュイがいなくなって寂しい気持ちもわかるけどさ、シュイはきっと大丈夫だよ」 「そうだよ。両親の元で、きっと俺たちには想像もできないくらい豪華なものを食べてるよ」  いなくなった幼なじみの名前を出されて、ヒースの胸はちくんと痛んだ。ヒースは無理やり笑みを浮かべると、そうだな、とうなずいた。 「シュイはきっと大丈夫だ」  王都からの客人と共にシュイが旅立って数日、村は何事もなかったかのように日常を取り戻していた。村祭りでトンイは今年もナンサに花を贈って、ごめんなさいと断られた。ジュンシは密かに思いを寄せていたエリンに花を受け取ってもらえたらしい。皆少しずつだが銀髪の少年などはじめからいなかったみたいに、当たり前の日々を送っている。だけどヒースだけは、皆のようにはできなかった。  シュイが村を去って以来、心がからっぽになったみたいに何もする気が起きない。幼いころから守り人になりたくてずっと訓練に励んでいたのに、それすらどうでもいい気がした。このままじゃいけないとわかっているのに、手のひらからさらさらと砂が零れ落ちるみたいに、何もする気が起きないのだ。毎日抜け殻のようにぼんやりと空を眺め、気がつけば首から下げた小袋をぎゅっと握りしめる。袋の中には、あの日シュイが残した石が入っていた。そうしていると少しだけシュイの存在が感じられる気がした。そんな自分のことを、幼なじみの少年たちはおろか家族が心配しているのにも気づいているのに、ヒースはどうすることもできなかった。 「……ごめん。帰るよ」 「ヒース……」  ヒースは明るくまたな、と告げると、心配そうに眺める幼なじみの少年たちを残して家路につく。  ――ヒース。
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