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 ふいにシュイの声が聞こえた気がして、ヒースははっとなった。だが、当然のようにそこには幼なじみの姿はなく、ヒースは呆然とその場に立ち尽くす。タイシたちの言うように、シュイはきっと大丈夫だ。そう心に言い聞かせても、胸の痛みは消えることなく、むしろひどくなる一方だった。あちらこちらにシュイとの思い出が残っている。振り返ればそこに銀髪の少年が立っているような気がした。  乾いた冬の空に薄い雲が浮かんでいる。冷たく澄んだ空気が肺の中まで染み渡るようだ。家に戻ると、母が夕食の準備をしていた。まだ幼い妹のマナは、母の足元に纏わりついている。 「ヒース、おかえりなさい」 「ただいま」  手を洗い、祖父と父の隣に腰を下ろす。 「さあさ、ご飯ですよ」  母が木の器にシチューを取り分けた。炭で炙ったパンをちぎり、祖父と父が山で捕り捌いた猪肉入りのシチューに浸しながら食べる。その日もいつもと変わらない一日が終わろうとしていた。異変が起きたのは真夜中のことだ。闇を切り裂く異様な物音に、ヒースは目を覚ました。 「いったい何事だ?」  五人家族の端で眠っていた父が身体を起こすと、母が室内の明かりをつけた。まだ幼い妹のマナは、怯えた顔で母の着物にしがみついている。  静かな村で何か尋常でないことが起こっている。祖父と顔を見合わせた父はうなずき武器に手にすると、「ちょっとようすを見てくる。何かわかるまでお前たちはここにいろ」と外へ出ていった。 「俺もいく」  ヒースも父に続いて外へ飛び出した。ヒースが一緒にきたことに気づいた父は何も言わず、うなずいた。  ヒースたちの住居は、村からは少しばかり距離がある。離れているといっても、大人の早足ではそれほどかからない。村を臨む高台で、父は呆然と立ち竦んだ。そこに映る光景に、ヒースは愕然となった。 「これは……」  村が燃えていた。これまでヒースが育ち、愛した村が赤々とした炎に包まれている。風がうねり、ごおっと火の粉が自分たちのほうへ舞ってくるのを、ヒースは腕で庇った。 「は、早くみんなに伝えないと……っ。そうだ、母さんたちにも早く逃げるように言わないと……っ」  村が、村が燃えてしまう……!
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